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自分の"強み"を活かせる若手が会社の未来を作る ~若手社員のアイデンティティ確立の必要性~【後編】

[2007.08.06] 佐々木 郷美

●どのように若手社員のキャリアを開発するか?

 組織において自分らしい個性や強みを発揮することと、成果を出して会社に貢献するという命題は二律背反なのでしょうか。
前回のコラムでは、その両立を実現するために、企業が若手社員のキャリア開発を戦略的に支援していく必要性をお話して参りました。今回は若手社員のキャリア開発における具体的なプロセスやポイントを見ていきます。
若手社員が会社の将来を担う人材となるために、プロフェッショナル(職業人)としてのアイデンティティをどのように確立していけばいいのでしょうか。アイデンティティはじっと座って考えて醸成されるものではなく、日常業務のプロセスを繰り返す中で構築していくものであると考えています。

 仕事を始めてからプロフェッショナルとしてのアイデンティティが確立されるまでのプロセスを、What、How、Do、Checkの4段階に分解して考えてみましょう。入社すると、仕事はまずDo→Check→Howのサイクルから始まります。最初は、とにかく何も考えずに現場で指示された仕事をこなすことが求められます(Do)。転職後でも部署を異動しても同様です。すると、その成果に対して上司や顧客からフィードバックを受けます(Check)。そのフィードバックを踏まえて、仕事のやり方に工夫を加えていきます(How)。業界や企業規模によって標準年数は異なりますが、おそらく入社して最初の何年か1人前とみなされるまでは、このサイクルを繰り返します。やがて、指示されたことが上手くできるようになれば、この繰り返しに飽きる時期が来ます。その段階で必要になるのが、自分に与えられている仕事の意味を自分で考え、定義すること(What)です。

 組織における自分の仕事の意味を考え、さらには人生の中での仕事の意味を定義できるようになると、当初のように与えられたものをただこなすというサイクルを回すのに比べて、自らの力の発揮度合いが大きく変わってきます。この力を私たちは「Whatを構築する力」と呼んでいます。Whatを構築する力が「自立」であり、How→Do→Checkのサイクルを回す力が「自律」です。プロとしてのアイデンティティを確立するためには、この2つの「ジリツ」が必要です。

 このWhat→How→Do→Checkの全部のサイクルを自分で回せるのがプロフェッショナルであり、プロフェッショナルとしてこのプロセスを継続的に回していくことによって、社員のキャリアは開発されるといえるでしょう。


●キャリア開発のポイント

 Whatを構築するには、まず「自分らしさを知る」ことが大切です。自己分析というと、たとえばキャリアカウンセリングを通じて、職務経歴書の振り返りを行い、知識・スキルや仕事の実績の棚卸しをするなどが一般的であるのに対し、何に心がわくわくするか、心地よいと思うか、という内的な軸を探ります。これを「内的動機」とか「モチベーションの源泉」といい、自分らしさを形作っているものです。たとえば、目標達成や人間関係、プロセス重視などが挙げられます。自分らしさがわかれば、その動機を活かした仕事を知ることで仕事が面白くなり、他者との違いにも気づけるため人間関係を構築しやすくなります。

 Whatを構築するためにもう1つ大切なのは「キャリアビジョンを描く」ことです。ライフプラン(人生設計)からキャリアプランを立て、計画通りに進めていこうとする方法もあります。たとえば、何歳で年収1000万を稼ぐために、何歳までに資格を身につけて、何歳で主任になり、転職して・・・と目標から逆算した計画に忠実にキャリアを歩むことを目指します。しかし、キャリアを取り巻く環境変化が激しい現在、ビジョンはイメージで十分です。「会社に頼らず独立して仕事ができる力をつける」「大きな組織の中でビジネスを創出し革新を起こす」など漠然とでも「こんなふうに働きたい」というイメージを描くことが大切です。

 スタンフォード大学クランボルツ教授の『計画された偶発性』理論によれば、キャリアの満足度が高いビジネスパーソンのキャリアの80%は予期しない偶然の出来事によって形成されているとされます。計画どおりのキャリア形成はわずか20%です。誰かとの出会いで自分の考えに影響を受ける、急な異動によって意外と面白い分野に辿り着くなど、何がきっかけでキャリアの転機が起きるか予測できないものです。また計画し過ぎず、何となくイメージを持っておくことで柔軟に軌道修正をすることも可能です。キャリアビジョンを描けば、仕事が自分の人生を豊かにするためのパーツとして位置づけられるようになります。

 次のステップとして、How→Do→Checkのサイクルを回す力を付けるためには、アクションプランを立てることです。例えば、お客様のレスポンスを上げる、初対面のお客様とのリレーションを強化する、社内調整能力を身につけるなど、成果に直結する行動を開発して、行動変容を促進するのです。行動変容は視覚化しにくく、一朝一夕に身につけられるものではないですが、キャリア開発はとても重要なステップです。

 行動変容を分解すると4つのステージに分かれます。最初はできないことを知らない状態です(第1段階)。自分が取っているちょっとした何気ない行動が周囲に迷惑をかけたり、無意識に何かの効率を下げているなどがあるものですが、気づきを得ることで、できないことを認識します(第2段階)。アクションプランを立てて努力することにより、意識すればできるようになります(第3段階)。それを継続して取り組むことで、無意識にできる状態になります(第4段階)。従って、行動変容のためには長期的なプロセスとして、意識的、継続的な習慣付けと努力が必要なのです。


●若手社員の"自分らしい"キャリア支援のために

 このような若手社員の意識と行動の変容を促すキャリア支援施策として、各社はどのようなことを行っているのでしょうか。上場企業の人事部へのアンケートによれば、目標管理制度、人事異動の自己申告制、上司との定期的なキャリア面談が主に挙げられます。しかし、制度だけでは形骸化していることも多く、現場で有効に活用されているかどうか、全ての制度が必須でないものの、その内実はどうなのかが肝要です。

 一方、社風・風土もまた若手社員の自立には必要です。社員を成長の原動力と位置づけ、人材育成を重視しているという経営者のメッセージは社員に響くでしょう。但し、いくら個々の社員に「"自分らしさ"をどんどん主張しなさい」とメッセージを投げかけても、現場に裁量権がなかったり、実現不可能と一蹴されたり、「何を生意気な!」と徹底的に叩かれるなど上司がそれを認めない環境や、評価システムが実績だけで行動を評価しないような環境では、社内にキャリア支援の風土は根付きません。仕事の中でしかるべき自由裁量があるか、気づきと行動変容を促すソフト面の支援がどれだけされているかを見直すことが求められます。

 こうして社員一人ひとりが"自分らしく"あるためのキャリア支援には、研修実施によって個人の意識に働きかけるだけでなく、現場におけるOJTを通して、個人のスキルにも気づきと行動変容を起こすなど、組織風土・集団意識、制度・組織体制を含めたトータル的なアプローチが重要です。自分の強み"を活かすとは、自分の持ち味やこだわりなどを仕事に活かすことを意味しますが、当然単に好きなことをわがままにやるということではなく、周囲と協調して組織の成果に結び付けていくことが求められます。この両面を若手社員にバランスよく習得させることはチャレンジングながらも、会社に貢献する人材育成という将来の経営戦略にとっても非常に重要なことではないでしょうか。 

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