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シニアを活かす!企業の本気度

[2007.07.10] 田島 俊之  プロフィール

 果たして企業は本気でシニアを活かそうと考えているのか? また、シニア個人は本気で自身の後半戦の人生を充実させようと思っているのか?
先日、このテーマについて企業研修会社の担当責任者の方と色々とお話をさせていただく機会があった。

 企業の人材確保に関わりの深い生産年齢人口(15歳~64歳)は1995年の8716万人をピークに減少し2025年には7096万人(59.5%)、 2055年には4595万人(51.1%)まで減少すると予測されている。これは企業にとって将来へ向けての人材の確保が益々難しくなっていくということを意味している。
この状況の中で2006年4月から施行された高年齢者雇用安定法による動きは全ての企業にそれを義務付けた点で確かに企業の具体的な動きを加速させた。また、最近になってかなり積極的にシニア活用に乗り出してきている企業もあるようだ。現時点の法定義務である63歳を越えた65歳定年導入企業が多くなっているし賃金水準も50歳代時点の賃金水準を維持したり評価に応じた高水準の賃金を支払うケースもあるという。また、再雇用での働き方を週2~3日から5日までを選択できたり短時間勤務を選択できたりする多様な働き方も模索されてきている。

 こういった背景のなかで果たしてシニアを活かす施策に本気で取り組んでいる企業の数はどれほどであろうか?というのが話題の中心であった。

 数多くの企業の研修を手懸けている研修会社の方である。企業人事教育担当者の本音もかなり把握しているだろう。話は、研修のトレンドの話や講師管理の話など盛り沢山であった。そして冒頭の話題である。やはりバブル崩壊後に花盛りであった「転籍のための研修」や「役職定年者のための研修」を中心に実施してきたそうである。
 「田島さん、パソコンをまともに使えないシニアやコピー機の操作も出来ないシニアを企業が本気で活かそうと考えると思いますか?答えはノーですよ。どこの企業も総論賛成でお上の方針に則って言われたところまではやるがもう一歩踏み込んで積極的にシニアを活かすような施策を打つつもりはありませんよ。」
 お話をしたその方の結論は、私の予想通り、総論賛成・各論反対――あるいは各論保留――で、シニアを活かす施策に積極的に取り組んでいる企業はほとんどないというものであった。企業はほとんどのシニアに対して辞めてもらいたいと思っている。企業内に残って欲しい人はほんの一握りだけだ。『本気の企業<上辺だけの企業』だと言うのだ。

 確かに今現在の実態はその方の言う状況に近いのかもしれない。しかし、それでいいのだろうか?人材育成・企業研修に関わる者としてはその状況を何とか変えていくべきではないかと思う。『本気の企業>上辺だけの企業』に変えていかなければならない。さらに言えば、『本気の企業』も少なからず増えてきているのではないか。

 そのためには、あらゆる場面で従来の発想を変え、仕組みを変えていかなければならない。変えていくべき枠組みとしては、社会・企業・個人の三つが考えられる。

 一般社会ではシニアに対する固定観念が実態とかけ離れてきてはいないだろうか?例えば、生産年齢人口はなぜ64歳までなのか? 老人は65歳からという定義は時代に合っているのか? 社会の現実に併せて物事の基準を変えていってもいいのではないだろうか。

 企業における人事制度でも同じことが言える。企業内にシニア活躍の場は本当に無いのか? なぜ一定の年齢で仕事を辞めなければならないのか?・・・など。
 今後は過去の延長線上の人事制度による一律管理は不可能だろう。もちろんシニアを活かす社会でユートピアを追い求めているわけではない。理想だけを追っていても仕様がないし現実を直視しなければならないと思う。その中で個人にとっては厳しい選択をせざるを得ない場面もありえるかもしれない。しかし、従来の人事制度の軸を見直すことで一律的な人事管理から個人個人の強みを活かせる個別の人事管理へ移行することができるはずだ。それによりきちんと準備をしてきたシニアには自分を活かせる道がいくつでも用意できるのではないかと思う。企業の責務と個人の責務をお互いに果たす中で多くの人が活躍できる場を作り出すことができるのではないだろうか。
さらにもっと根源的な問題として、働く個人をどう活かすかを企業は本気で考えてきたのか? あるいは本気で人材育成をしてきたのか? という問題がある。あまりにも短期的成果を追うための知識・スキルの習得に偏重し、人材そのものを成長させるための施策が実施できていなかったのが現実だろう。ある企業のトップが「これからは社員の評価を時価主義で行う」と宣言したことがあった。人材の成長を無視した考え方である。その企業は人材の流出が続き株価も低迷している。企業の将来を担う人材の未来は過去の積み重ねと現在の努力の先にしかないのだ。それらの施策を後回しにしてきたつけが今になって色々な課題を突きつけているのだ。今こそ企業は本気で個を活かす施策に取り組まなければならない。後がないのだ。

 最後に、シニア個人も従来の発想を変え今までのような会社に頼りきった状況からどうやって自立していくかを真剣に考えなければならないだろう。
 パソコン操作の基本的な知識やコピー機操作のスキルはほんの少しの新しいことを受入れる態度と意欲さえあれば時間を遡って習得することはいくらでも出来るのではないか。若かりし頃でもシニアとなった現在でも、どの時点にいてもこれから先の未来は過去の積み重ねと現在の努力の先にあるのだ。つまり、これからのシニアは個人の枠組み(趣味の世界に生きるなど)だけに留まらず、もっとポジティブに人生を生き(組織や社会への貢献)、ライフ・キャリア・ファイナンスの自立を目指す行動により本当の自己実現が達成できるようになっていくべきであろう。

私もシニアの端くれとしてシニアを活かす『本気の企業』を増やしながら多くの企業の本気度を上げるお手伝いや、自己実現を目指すシニア個人のサポートをしていきたいと尚更強く思った出来事であった。

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