経営・人事コラム

人事コラム バックナンバー

世代構造からみるキャリア開発支援のポイント

[2007.07.01] 中田 研一郎

悩ましいバブル世代への対応

多くの大企業で、バブル世代に対する今後の対応が問題視されています。バブル期に大量採用された世代が、今まさに40歳代、つまり管理職になる年代に突入しようとしている。ところが、90年代に大規模なリストラを行ったため、ポストはかなり減っている。つまり、管理職になれない人たちが大量に発生しつつあるのです。また、年功型賃金が完全に払拭されていないため、人件費が増大するという問題もあります。

この問題に対しては、これまでキャリアコースの複線化、ラインマネジメントの人数の絞り込み、年功給要素の排除といった制度的な対応は行われてきました。しかし重要なことは、バブル世代の内面的な対応ができているか、ということです。企業が新たな価値を創造して競争に勝ち抜くための前提条件となるのは、現場で指揮を執る管理職のチャレンジ精神にほかなりません。しかし、少ないポストを大勢で取り合う状況では、少しでもミスをするとポストに就けないのではないかと、保守化傾向の管理職が増加します。

チャレンジ精神の前提には、将来の目標が明確なこと、そして金銭的な安定の2つが必要です。従来の終身雇用体系においては、キャリアの保証と引退後まで含めた生活の保障がありましたが、今はもうありません。そこで今求められているのは、「個の自立」です。今後は個人が、企業に頼ることなく自分で生きていくための力を身につけ、自立した人間としてチャレンジ精神を発揮していかなければなりません。個の自立のためには、3つのファンダメンタルズ(自立化に必要な基礎力)と2つのテクニカルリテラシー(自立化のための技術)が必要です(図1:「個の自立とは?」)。企業はバブル世代の自立マインドと技術を高める方策を、意識的に打っていく必要があります。
tokusyuu_6.jpg
※図1:「個の自立とは?」

自立への分かれ道となるのは、30歳代後半から40歳代にかけて、まさに人生80年の折り返し地点です。この時までに自立化するかしないかによって、自立した社員としてキャリアアップを果たしリスクテイクができる人生に進むか、あるいはキャリアに対する考え方やリテラシーがないまま「ぶら下がり社員」になってしまうかが決まります。バブル世代がこの時期を迎え、リスクテイクできない管理職が圧倒的に増えれば、その会社は3~5年後に間違いなく沈滞していきます。なぜなら、現状維持しているつもりでも、時代の変化は、自ら変化する力を失ったビジネスを置き去りにしていくからです。

問題の本質は日本企業のマネジメントにある

一方、新卒や第2新卒と呼ばれる若手世代では、中卒・高卒・大卒のそれぞれ7割・5割・3割が就職後3年以内に離職する「七五三問題」があります。若手社員の離職理由をみると、「仕事が自分に合わない、つまらない」「賃金や労働時間などの条件がよくない」「会社に将来性がない」「キャリア形成の見込みがない」という理由が多くなっています。

バブル世代や若手社員に起きている問題は、果たして世代の問題なのでしょうか。私は、これは日本企業のマネジメントに内在する、かなり本質的な問題があるのではないかと感じています。

(財)社会経済生産性本部「労働生産性の国際比較」(2006年版)によれば、日本は労働時間が世界一長いにもかかわらず、労働生産性は先進国の中で最も低くなっています。これだけ長く働いているのに生産性が低い。その理由はマネジメントや働き方が悪いということ以外に考えられません。

また、毎年スイスのIMDが発表している国際競争力トップ60カ国ランキングの最新版によれば、日本は「起業家精神の広がり」が先進60カ国中53位でした。企業において最も起業家精神を発揮すべき存在は現場のディシジョンメーカーである中間管理職です。ここが保守化すれば、さらに事態は深刻化します。

日本の人事制度は年功制から成果主義へと変化しましたが、リストラのための制度改革に留まり、マネジメント変革にまで至っていない企業が少なくありません。給与制度は確かに大きく変わりましたが、年次管理による昇進昇格制度は依然残っています。その上90年代以降は組織の成長が止まったためにポストが減少し、若手に権限がなかなか降りてきません。

こうしてみると、バブル世代のマネジメントの保守化や、若者の早期離職といった世代の問題は現象に過ぎず、問題の本質は、時代の変化に対応できていない、旧態依然のマネジメントスタイルにあるのではないかと思います。その証拠に、世界に通用する日本企業には、こうした世代の問題はほとんど発生していません。

管理職と若手はどう変わるべきか

誰がどう変わるべきかというと、私はやはりまず上司が変わらなければ始まらないと思います。上司は自立したプロフェッショナルであるべきです。真の自立とは、実務において自力で成果を出す能力を備えて初めて獲得できます。実務で自立できていない上司は危機感を抱かなければいけません。

個の自立を考えた場合、上司はプレイングマネジャーになるべきです。プレイングマネジャーは、部下に仕事をさせながら自分でもやってみせて実力をつけさせていきます。問題なのは、業務をすべて自分でやる"万年係長管理職"、あるいは業務を部下に丸投げする"お神輿管理職 ""回転寿司管理職"です。このような保守化した上司の下では変化は起こらず、部下は腐ります。真にイノベーティブな企業では、上司は考える業務を自ら行うだけでなく部下にもアサインし、作業ばかりでなく付加価値の高い業務を創出し、部下に挑戦させています。

若い世代は、プロフェッショナルな職業人として必要な意識を若い時代から醸成する必要があると思います。若い時代からアイデンティティを確立していれば、転職はキャリアアップになりますが、そうでない場合はキャリアダウンの可能性があります。

若者には「知識」も「経験」も「人脈」も「お金」も十分ではありません(4つの「ない」)。ビジネスはこのうちのどれか1つがなくても成功しません。ところが若者には「自由」「時間」「頭脳」という特権があります(3つの「ある」)。4つの「ない」を4つの「ある」にするために、3つの「ある」を若い時にどれだけフルに使えるかが勝負です。それができている組織は若い力がエネルギー源となって、間違いなく成長します。

プロフェッショナルに必要なものを考えてみると、まず、高度情報化社会ではスキルやナレッジといった「知」が不可欠です。次に「問題解決力」です。複雑な現象から本質を見抜き、抽象化し、課題設定する力や、理性と感性をバランスよく使いこなすことなどが含まれます。そしてそれらを支えるのが意思やアイデンティティの確立によって生まれる「責任感」です。また、アイデンティティ確立の3要素として、?自己同一性(首尾一貫した主義主張)、?自立性(他人や環境の責任にせず、すべてを自分の責任として受け止める)、?自律性(セルフマネジメント)が挙げられます。この部分がしっかりしていなければ、プロフェッショナルとは言えないのではないでしょうか。
koramu-17.jpg
図2「世代を超えてProfessional Personが求められている」

21世紀はハブ機能を持ったネットワーク型組織の時代

組織マネジメントの変革に必要なのは、昇進昇格要件における年齢の扱いを変えること(シニアと若手を年令によって差別しないようにする)、そして部下のマネジメントスタイルを変えることです。創造性のある仕事を継続的に任せ、上司が率先垂範してみせることが大事だと思います。

日本企業は80年代まではピラミッド型の組織でしたが、90年代には文鎮型の組織にしようとリストラを断行しました。2000年代以降は、ハブ機能を持ったネットワーク型の組織に変わる必要があると思います。ハブ機能を持つ管理職が中心に存在し、自らを軸にして部下の一人一人とがっちりとギアを組みます。自らが自転軸となれば、組織は公転していく。こんな関係になるのではないかと思います。

部下を桃にするか玉ねぎにするかは上司次第です。桃の中にはコアがありますが、玉ねぎは皮をむけば何も残りません。部下に玉ねぎの仕事ばかりやらせれば、国際競争力の観点から、日本の労働生産性はますます低下するでしょう。コア人材を育成し、数多く確保するためには、まず自分の中にコアを持ち、アイデンティティを確立した上司、起業家精神を持った管理職が数多く存在することが必要です。管理職の保守化を食い止め、若手を巻き込み、創造的な企業にしていくことが重要ではないでしょうか。

» 経営・人事コラムトップに戻る


お問い合わせ・資料請求
人材育成の課題
キャリア開発

キャリア開発

個人の働きがいと組織への貢献を両立するキャリア開発を支援します。

リーダーシップ・マネジメント開発

リーダーシップ・マネジメント開発

マネジャーに必要不可欠なリーダーシップとマネジメント力を養成します。

コミュニケーション開発

コミュニケーション開発

組織や仕事に変化を起こすコミュニケーション力を養成します。

組織開発

組織開発

ビジョンと価値観を共有し成果を高める組織創りを支援します。

営業力開発

営業力開発

お客さまと自社の双方に大きな価値をもたらすことのできる提案営業力、組織営業力を開発します。

経営力開発

経営力開発

ビジネスプランの立案に必要となる知識と実践的なスキルを養成します。

人事向けメルマガ登録

PAGE UP