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シニアのライフデザインと自立

[2007.05.14] 田島 俊之  プロフィール

 2007 年問題の影響だろうか。最近、自分自身と同年代のライフデザインについて考えることが多くなった。50歳代以上のシニア層※ともなれば常日頃から老後も踏まえた「生き方」そのものに絡んだ話が多くなるし「自立した生き方」といったフレーズにも敏感になるようだ。(※ここでいうシニア層は50歳代から60歳代の「働く」人たちを想定している)

 自らのライフデザインを画くためには当然に「自立」していることが求められると思う。「自立」した個人とは自らの価値観をしっかり認識しその価値観に基づいた人生を生きていける人である。しかし、我々50歳代以上のシニア層は本当に「自立した生き方」が出来ているのであろうか? また、本当に自らの価値観に基づいた「ライフデザイン」を画けているのであろうか?

 50 歳代60歳代の大人になればある程度経済的にも社会的にも「自立」していて当然だが意外と自分の価値観をしっかり認識し60歳代以降の老後生活についても「ライフデザイン」が画けている人が少ないように感じる。今までの会社依存の職業生活や家族依存の家庭生活とは違う価値観を描けず精神的に「自立」するレベルに到達していないのだ。あるいは今までと同様の価値観しか持てずにこれから先の変化に対応する術をもてない状況かもしれない。

 ましてや自分の価値観を次世代に示すとか伝えていくといった社会的な義務を果たす意思も益々弱くなってはいないだろうか?

 人生後半戦に突入したシニア層のライフデデザインには「自立」と「時間価値」という考え方が大前提である。「自立」した価値観のもとで限られた時間をどう活かすかが最も重要である。ミドルまではたとえ何か――例えば会社―に頼り切って自立していなくても何とかなってしまった。また、今まではそういう時代だったかもしれない。しかし、これからのシニア層は自分の問題としてどう生きるかをしっかり考えなければならない。人生の時間は益々延び、働きは?企業は?老後資金は?・・・・・考えれば考えるほど国も企業も頼りにならないのだ。
 
 確かに活き活きシニアもいる。リゾート地に居を構え自らの価値観にあった仕事のみを中心に悠々自適なワークライフバランスを絵に画いたような生き方をしているシニアや、仕事は完全にリタイアして夫婦で海外ロングステイ等々。こういった生き方を選択できるのは自分なりの価値観をしっかり持った上にファイナンス面でも心配が少ない団塊世代の人たちが中心である。しかし、これらの生き方を選択できている人たちは50歳代以降のシニア層全体からみればほんの一握りだ。大多数は会社依存の職業生活にどっぷりつかり切って今までと同様の価値観しか持てずにこれから先の変化に対応する術をもてない「自立」していない人たち、あるいは老後のファイナンス面が不安で選択肢が狭まっている人たちではないだろうか。
 ここに重要な課題が二つあると思う。一つは、シニア個人の働き方や生き方などの意識変革(個人課題)、二つ目がシニア層を本当の意味で活かすための従来とは異なった視点の人事制度の構築(企業人事課題)である。今後の少子高齢化社会における就業人口の変化や働き方の変化が予測されるなか、女性活性化と同様にシニア活躍の場が益々必要になる。つまり、この課題は社会的にも重要な課題の一つではないかと思う。シニア層個人への意識変革(個人課題)もさることながら特に企業の人事課題としても大きい課題であろう。企業の人事部は早くこの課題に着手していく必要があると思う。

 ところで、そもそも「自立」とはどういう意味だろうか?
ネットで検索すると、「障害者福祉」「障害者自立支援」「若者の自立」といったキーワードが上位に並ぶ。障害を持つ方や生活に援助が必要な方々への弱者支援であるとか、まだ一人前になっていないあるいはなりきれない若者に対する支援のキーワードとしての色彩が強く感じられる。「シニアの自立」についてはほとんど出てこない。

 本来「自立」とは家族や周囲の人達に頼る存在から独り立ち出来る存在へ変わっていく――成長していく――過程を表す言葉ではないかと思う。

 我々は年を重ねながら誰かに頼る生き方から、一人でも生きていけるように「自立」していくことになる。一口に「自立」といっても経済的自立・社会的自立・精神的自立など一人ひとりの生き方に対する考え方や置かれている環境状況が異なるので「自立」していくパターンも色々あるだろう。
大人は働かない若者を一緒くたに見て批判をすることが多いが、そういう大人も本当に「自立」していると言えるのだろうか?例えば、親に経済的な支援を受けながら大学卒業後も就職せずに生活(勉強)していることが「自立」していないこととイコールではないと思う。逆に、会社に頼り切った生き方しか選択できない状況にいる社会人の方こそ「自立」しているとは言えないのではないだろうか。

 問題は自分の何についてどう考えどう決めて将来に向けて何をしていくのかを実践しているかどうかである。きちんと自分の価値観を見据えて独り立ちする準備をしているかどうかだと思う。価値観をしっかり意識しそれを行動に移していければ経済的自立から社会的自立さらには精神的自立へと独り立ちの道を歩んでいけるのではないだろうか。「自立」の種類やステップは人それぞれである。

  昨年ある福祉団体で行ったセミナーも50歳代以上のシニア層は本当に「自立した生き方」が出来ているのかという疑問を感じた出来事である。
 私は数年前から任意後見制度を社会に認知普及させていくというNPO法人へ参画して活動している。昨年のNPO活動の中で、全国レベルの福祉団体主催の研修会で「任意後見制度の仕組みと活用事例」というテーマで話をさせていただく機会があった。全国7ブロックで基本的には同じテーマで同じ話をさせていただいた。

 任意後見って何?という方――ほとんどの方がそうでないことを祈りながら――のために制度について簡単にご紹介しておく。
 従来からあった禁治産制度に対して2000年に自己決定権の尊重・残存能力の活用・ノーマライゼーションの三つの理念を掲げて新しい成年後見制度が誕生した。大きくは法定後見制度と任意後見制度の二本立てとなっており、法定後見は後見・保佐・補助の三段階、別に任意後見制度がある。法定後見の補助と任意後見が新設されている。

 これからの時代は身体だけでなく、認知症など長生きによるリスク拡大が顕著となる。任意後見契約は判断能力のあるうちに自らの生活、療養介護、財産の保全、財産の管理等の全部又は一部の事務については自らが選んだ任意後見人に託しておく委任代理契約である。公正証書で作成することが義務付けられており家庭裁判所により任意後見監督人が選任されたときからその契約の効力が生ずる仕組みになっている。
(詳しくは、こちらのHPで。 http://www.kouken.or.jp/index.html 

 私の話は単に「任意後見制度」の説明をするだけではなく、その前提となるライフデザインやファイナンシャルデザインについてのスタンス・価値観というところから話をしている。当然に「自立する」スタンスがもとめられるのであるが、研修の参加者は「自立」といえば自立支援法の改正 (改悪?) について喧々諤々の議論になってしまうようであった。参加者のほとんどは私と同年代の50歳代かその上の世代の方々である。障害のある子供の将来をどうして行くかが最重要テーマであるのだが、私はさらに別の角度からの考え方として自分たち自身の老後をきちんと考えることによって大切な子供の将来をどうしていくかという考え方をもっと持って欲しいと感じた。親世代自身が本当の意味で「自立」していなければ子供の「自立」も考えられないのではないかと思う。

 そういう意味では任意後見制度の話をしていていつも思うのが、制度が広まらないのは制度を活用すべき人たちに「自立」の意識が希薄だからではないかという危惧である。下手をすると当面制度を活用すべき我々50歳代より上の世代の人たちには意外と精神的自立の意識が希薄なのではないかとすら思う。

 50 歳代の大人ともなれば、誰かに頼る生き方でなく自身の「自立」をしっかり考えそれを次代へしっかり伝えていくという考え方が必要ではないだろうか。自分の生き様や何をどうしてきたか、そしてそれをどうしていって欲しいかを次代へきちんと残すということである。例えば「遺言」には法的拘束力こそはないが自分の思いを伝えられる「付言」という枠組みがあるそうである。

 若者の世界の「自立」や福祉の世界の「自立」も重要だが、まずは我々シニア世代の「自立」が先決ではないだろうか。我々自身が「自立」して初めて自身の価値観や生きることへの考え方・思いを「ライフデザイン」として画き、それを次代へ伝えることができるのではないだろうか。
翻って果たして自分自身は本当に「自立」出来ているのだろうか?その問い掛けそのものは常に持ち続けていきたいと思う。

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