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会社の未来を作る若手に今求められるキャリア開発 ~若手社員のアイデンティティ確立の必要性【前編】~

[2007.05.26] 佐々木 郷美

会社から見た若手社員の強みと弱み
組織において自分らしい個性や強みを発揮することと、成果を出して会社に貢献するという命題は二律背反でしょうか。

今回はそれらを両立する若手社員のキャリア育成支援策について2回シリーズでご紹介していきます。


「最近の若者は...」という言葉をよく耳にしますが、具体的に近年の企業における若手社員の特徴を見てみましょう。

まず経済同友会・教育委員会の『企業の教育・人材に関するアンケート調査』(2003年)によれば、経営者から見た若者の「強み」として、第1位は「IT リテラシー」(81.7%)ですが、「感性」(47.9%)「環境適応力」(39.4%)、「協調性」(25.5%)というキーワードが挙げられています。
一方、弱みとしては「忍耐力」(73.8%)「問題解決力」(54.6%)と並び、「チャレンジ精神」(45.9%)の割合が高くなっています。経営者からは、若者は求められることに応えていく適応力、柔軟性はあるものの、失敗や間違いを恐れずにチャレンジする精神的な強さや粘り強さに欠けるように捉えられているようです。

一方、日々若手の採用教育に携わっておられる人事部のご意見はいかがでしょう。
JMAM人材教育の『人材開発の現状の課題と今後の方向性に関する調査報告書』(2005年)では、ソフト面のスキルに着目し、人事部が自社の若手社員に最も不足していると考える「人間力」として「関係力(コミュニケーション力)」と「主体力」が多く挙げられています。

「主体力」とは自分の考えを持ち、意欲的に周囲を巻き込む力です。

近年、社会性の低下が指摘されますが、核家族化や地域社会との接点の減少を背景に、学生時代までは付き合う相手を選べる個人主義で済んでしまうため、若者が周囲に適合できないという現象もあるでしょう。

企業の中で若手社員は成長する途上にあることを思慮すると、若い年代にこうした「コミュニケーション力」や「主体力」を強化して学ばせる必要があることを示唆しているといえます。

●若手社員のキャリア意識は?

では、若者自身はどのような就業意識を持っているのでしょうか。リクルートの『新入社員意識調査』(2007年)によれば、働く目的として「安定した収入」を挙げる人が3年連続で最も多く、次いで「自己キャリア開発」「専門性を身に付ける」「将来の目標への足がかり」といった項目が目立ちます。
つまり、安定志向が強いながらも、その仕事の中で自分をいかに成長させられるか、ということに意識が向いているようです。

就職活動中からインターネットやOB訪問などを通じて情報収集し、熱心に企業研究して入社する傾向が見られます。

一方、ワークス研究所の『世代間の就業観調査』(2003年)によれば、特に20代前半では「自分の能力開発は会社の責任」と考える人の割合が0.60ポイントと他の世代と比較すると突出して高くなっています(20代後半 0.32、30代0.25ポイント)。キャリアへの目的意識・成長意欲がある一方で、キャリアを自分で努力して掴み取ろうとするよりも、育成体系が充実した環境の会社を選べるかどうかでキャリアが決まると考えているようです。

また同調査では、「仕事上の意見の違いはあっても対立点を議論せずに済ませたい」「社内では同期や同年代で集まったり行動したりするのが好きだ」という人の割合も20代で非常に高くなっています。

管理職になれば社内調整も必要であり、やや保守的にならざるを得ない姿勢も理解できますが、本来であれば、一番血気盛んに自分の意見をぶつけたい世代であるはずではないでしょうか。

この傾向は、近年の若者世代の特徴として、SNS(ソーシャルネットワークサービス)などを活用した横のネットワーク形成やバーチャルなコミュニケーションを得意とする一方、対面でのリアルなコミュニケーションに不慣れである現象にも共通して述べられるかもしれません。このように、「職場でもトラブルなく穏便に済ませたい」という意識が強い状況では、現場での上下の人間関係は希薄になり、OJTが機能しにくいことが考えられます。

「納得いくまで議論を戦わせなさい」、「主体性を持って取り組みなさい」ということ自体、以前は教える必要がなかったはずです。従来、先輩の後ろ姿を見て学んだり、叱られたりする過程で自然と身につくべき仕事に対する姿勢(「コミュニケーション力」や「主体性」)を学ぶ機会が減ってきていると推察されます。

●若手社員におけるキャリア発達上の課題

最後に、キャリア発達のプロフェッショナル的な観点からみると、若手社員には他の年代とは異なる課題があると考えられます。

キャリアとは、「働くこと」を中心とした個人の生き方(ライフスタイル)全体を指し、一生涯をかけて成長、発達するものです。

キャリアの世界では、年代ごとに、組織の中での役割の変化や結婚・育児・介護などライフステージの変化を反映し、抱える問題・悩みに特徴・傾向があると考えられています。

キャリア発達上の課題として、20代後半から30代の若手・中堅社員の場合は、「やりたいこと」と「できること」とのギャップの現実に苦しんだり、権限がない中で意欲があっても実現する手段が得られない葛藤や、「やりたいこと」がはっきりしない漠然とした不安感に苛まれたり、あるいは現場の最前線で下積みが求められる世代として、多忙な生活で仕事の意義が見出せずに疲弊してしまう、などの課題が挙げられます。

この年代層に最も大切なテーマは、「プロフェッショナル(職業人)としてのアイデンティティの確立」です。

キャリア人生の立ち上がりの時期、よちよち歩きから自分の足で立つまで一つのハードルです。人生に思春期があるように、20代から30代はキャリアにおける「自分とは何か?」(「自分らしいキャリアとは?」「自分らしい貢献とは?」)を知る時期なのです。このようにして、プロとしてのアイデンティティを確立できた人が、40代のステージを迎えると、具体的な成果を上げ、組織を引っ張る存在へと発展を遂げてゆくことができます。

次回は、果たしてどのように若手社員にプロとしてのアイデンティティを確立させるべきか、日常業務におけるキャリア開発のポイントを具体的にご紹介させて頂きます。

(続く)

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