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学校推薦の廃止 ~開発・技術系人材における新卒採用と評価 (3)~

[2007.04.10] 中田 研一郎

 2 学校推薦の廃止

 今日の「開発人材,技術系のエンジニアをどう育成」というテーマに関連して申しあげると、特許出願の用紙には学歴欄などないのは当たり前のことですが、発明の明細書においては、発明のクレームがどれだけ立派な物になっているか、それが権利として成立するかどうかということです。

 しかしながら日本の会社の中には「当社の採用は博士が○人、修士が○名」とその数を誇っているケースが多くあります。しかし、高学歴者を大勢集めても、あまりクリエイティビティーの高い商品を出していない会社もあります。つまりあまりにも形式にこだわりすぎているのではないでしょうか。

 そういう発想から,2004年に学校推薦制度を廃止して完全自由応募制を導入したわけです。

 そのきっかけは、中国に行って、中国人の新卒の採用をしたことです。まったく自由に採用したい学校を訪問して説明会を開き採用活動に何の制約もありませんでした。その経験から同じことを日本でやろうとすると、日本には学校推薦という制度が特に理科系の新卒採用の基本的な仕組みになっているため、真に自由な採用活動の障害になっていることに気が付き、これを廃止しました。

 私は中国で採用をした学生と,日本で内定を取った学生に対し同じロジカルシンキングテストをしました。

 実はこの試験をどのようにして作ったかには下記の経緯があります。

 最近はインドにソフトウエアセンターを設ける企業が増えていますが、インドのほうが中国よりエンジニアを排出している数は多いのです。IITIという6 つの理系の工業大学では素晴らしい人材を排出しています。ご存じの通り、インドでは99×99まで暗算でき、数学は大変得意です。

 ソニーもバンガロールという所にR&Dセンターがあり、数名の新卒採用をするということになったときに、口コミで告知したところ、誰かがネットに書いて、当日ふたをあけたら4000名が受験に来たのです。私にメールが来まして「大変なことになっている、見に来てほしい」と。私もインドには行ったことがなく、一体何が起こっているのかを知るために、バンガロールへ行って一部始終を視察しました。

 筆記試験の一次試験をしたところ、会社のオフィスのあるショッピングモールが開店と同時に満杯になって警官が来て「何をやっているのか」とおしかりを受けたということです。それぐらいエンジニアが多いのです。

 その試験問題を見せてもらうと、ロジカルシンキングテストなのですが、まことに難しい問題でした。ショックを受けまして、その問題を日本へ持って帰って、日本でどのような試験をしているのかと見せてもらいましたが、さほど難しくありませんでした。

 ロジカルシンキングも強くて、クリエイティビティーもあってという人は数少ない。そこで、日本でもロジカルシンキングとクリエイティビティーの双方のかなり難しい試験を二次の面接試験のときに、実施することにしました。

 私は韓国でも、ソウル大学、延世大学、高麗大学の3つの大学で日本の企業ではじめて新入社員の採用試験をして、韓国人のエンジニアも採用しました。その結果、韓国人、中国人、インド人、日本人に対して行った同じ試験の点数が分かっています。「この4カ国の平均点」を合否の参考基準にしてみました。つまり東アジアの人材という考え方に基づいた試験です。そのようなグローバルな視点から考えると、学校推薦で企業と大学が話し合いに基づいて学生の割り当て数を合意して採用するという形態というのはどう考えてもおかしいと思いました。

 学校推薦制度とは何かと言いますと、大学別に推薦希望数をお願いします。大学はその推薦枠に合った人数を
推薦してきます。従来の慣例では、その推薦された人のかなりの割合は合格をします。

 数のコントロールをして例えば10人中数名を合格させるということを繰り返してきた。

 しかし私はずっと法務をやっていましたから、その慣習を見ると「これはおかしい。資本主義国家でやるべき活動ではない」と思いました。上場企業と有名大学が合意して、お互いに競争するのをやめて、どこかの企業に有名大学が偏在して一人勝ちするのをやめましょう。横で連携を取って、「うちはA大学からは 10人しか取りません。B大学からは15人しか取りません」という形で、結果として採用の予定調和の世界を作るのが学校推薦制度です。

 学生にしてみれば推薦制度に乗ると競争しなくても受かるのでとても良い。一見三方丸く収まるということです。しかし、それは競争を制約した日本特有のシステムというように、私には映りました。

 学校推薦を廃止してから、もう2年、3年目に入っています。

 最近では、自由公募の学生が増えてきています。企業は「自分で考えて行動できる社員が欲しい」ということです。学校推薦は5月~6月に学校側が出しますが、自由公募による内定が4月には出始めると、推薦枠でなくても決めてしまうという学生がどんどん出始めたわけです。

 したがって、従来学校推薦に依存していた企業も学校推薦だけではなく自由公募もやろうという動きになってきました。日本の新卒の就職マーケットに自由競争の論理を入れようと思い、学校推薦制度というフレームワーク廃止しましたが、徐々にその動きが波及してきたのだと思います。

 採用の基本コンセプトは「ソニーに対して『意志』の高い人を採ろう」ということでした。「あなたに意志はありますか」が採用のキーワードでした。

 実はそのキーワードに関して詩を書きました。

 いろんな会社の募集要項に「当社は積極的に海外に進出していて、創造性に富んだ、活力に富んだ会社です」と格好いいことを書いてあるのですが、どこの会社も同じようなことを書いているので、学生にしてみれば良く分からない。

 私はそれを考えまして、少しユニークな物を作ろうということで、クリエーターと相談してかなり長文の詩にしました。ウェブのホームページの人気投票ランキングというものがあって、そのランキングを見ると大手企業は軒並み評判が良くない。一番人気があったのは決して大手ではない金融機関のホームページでした。

 トップ10を見ると,その人気の理由は簡単なのです。字の数が少なくてイラストが多いのです。学生は字が多いと読まないのだとすると日本の学生の知的レベルが心配ですが、我々はイラストではなく抽象性の高い詩を書いて学生に投げかけました。

 その一部分を紹介しますと、冒頭このような言葉で始まります。

 「あなたに意志はありますか。/自分がつくる何かで世界の誰かを驚かせたい。/自分がつくる何かで世界の誰かを愉しくしたい。/自分がつくる何かで世界を誰かを感動させたい。/そういう意志がありますか。/それが未だに前例もなく、/どんなふうに形づくればよいのか誰も知らない。/そんなものだとしたら、なおさらつくりたくなる。/行動していく意志がありますか。/自身の力では無理なんじゃないかという不安、/そんなことをやって何になるのかという他人の批評が、/少しずつ見えてきた形を、再び打ち消してしまう。/あなたの意志は、それでも打ち消されない強さがありますか。/自身の選択した道を信じて、/その先で必ず世界の人が待っていてくれると信じて、/なんとしてでも形にしようとする。/あなたにはそういう意志がありますか。/まだ形のないものを形にしようとするとき、/その核となるのはその人の意志しかないのです。・・・」とまだまだ続きます。実はこの詩はどこから出てきたか。

 ソニーという会社は今から60年前、昭和21年に誕生して、たった数人からスタートして、今全世界15万人の、世界のトップブランドです。最近いろいろ課題があるものの、日本を代表する企業です。その企業を一体だれが作ったのか。人の意志です。今日のテーマである、エンジニア、開発者、技術者。こういう人たちが世界に類のないものをなんとしてでも作るという、その強い意志を持って、貫徹力を持って、世界で初めての商品を作ったわけです。

 したがって、それに続く若い人も同じ意志のある人に来てもらいたい。という気持ちから、このようなメッセージを用意したわけです。

(続く)

出典元:「研究開発リーダー」Vol.4, No.2 2007

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