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リベラルアーツへの道 ~ビジネス雑談力に自信ありますか??

[2007.03.19] 三谷 宏治 (金沢工業大学大学院 教授/グロービス経営大学院 客員教授)

戦略コンサルタントの採用面接で何を見る?

私が面接官デビューをしたのは、ボストンコンサルティンググループに入社してすぐ翌年のこと。何を見込まれたのか不明だが、学卒向けとはいえ随分若い(かつ社会人経験の少ない)面接官だった。
もちろんガチガチに緊張していたが、そこは準備周到、いわゆる「ケース」を自分で創って、それをベースに議論に突入。なんとか乗り切っていたように思う。
以来、経験者採用を含め、20年近く採用に関わり、1000名近くの方との面接をこなしてきた。そこで私は何を「見て」いたのだろうか。
例えば上記の「ケーススタディ」もの。ケースをやると実に色々なモノが見られる。頭の回転、論理性、プレッシャーへの耐久性・・・
でも、まあ、そんな簡単に正解できるようなケースを用意するわけもないので、大抵の人は早々に撃沈する。しかし文字通り「問題」はそこからだ。

論理が破綻していれば、それを指摘し、別の例で論理の枠組みを説明してみる。定量性に欠けていれば、それを指摘し、定量化の分析をちょっとやってみせる。解決のアイデアが通り一遍でつまらなければ、それを指摘し、いくつかの切り口を喋ってみる。
そういった助け船にちゃんと乗れるかどうか。こちらの言っていることをちゃんと理解し、自分の足りないところを「足りない」と自覚し、提示したものを学習し、それを即座に応用できるか。
それこそが「問題」だ。
問うているのは正解に近づくための「力」が備わっているかどうか。能力を急速に高めていける資質があるかどうか。
「自分は学習能力が高いです」は応募者の常套句。ではそれを見せて貰いましょう。本当にそれは大事な力なのだから。

求められるのは「学習能力」と「人間力」

ケースや議論に真っ正面から立ち向かうだけが能でもない。
面接する側が最終的に判断したいのは「このヒトをお客様先に一人で置いていけるのか、否か」だ。
急に難題を持ちかけられたとき、分からないことをちゃんと「分からない」と言え、でもお客様を不快にさせず混乱を起こさず、きちんと対処が出来るのか。それはもう人間の「総合力」の世界、年齢は関係ないし、対処方法の正解やマニュアルなどない。
普段からのリレーションで乗り切る人もいるだろう。カリスマ的な、なんとなくの信頼感で押さえるヒトもいるだろう。論理的かつ的確なコミュニケーションで対応するヒトも。人間の数だけさまざまな危機対応アプローチがあり得るのだ。
面接中、こちらの出す「助け船」に乗り切れず、転覆しそうなときにこそこういう「力」が見えてくる。
「修羅場に強い」「危機に強い」も応募者の方々の典型的な売り込み口上。ではそれを見せて貰いましょう。ホントにホントに大事な力なのだから。

「人間力」をどう高めるのか

現代は情報化社会。面接で用いられたケースは、その日のうちにネット上で公開され、傾向と対策が練り上げられる。こんな企業のこんなヒトがこんな質問しましたよ、なんて情報も「就活サイト」での大人気コンテンツだ。
ここで挙げたことも、早速「必勝法」が編み出されてしまうのだろうか。
残念ながら(?)そうは行かないだろう。上記で挙げた2つの「力」は、付け焼き刃で準備しようとしても準備出来ないモノ。10回や20回、面接やケース練習をしたからと言って決して身につかないモノ。
こういったタイプの面接では、子どもの頃からの、そして社会人になってからの姿勢や全能力が試される。要は普段から頑張るしかないということだ。
逆に言えば「面接準備に頑張ってもしょうがない」ということでもある。やるべきことは自らの地力をちゃんと見せること。それのみ。付け焼き刃のお化粧など必要ない。後は面接する側がどう判断するかだけの問題だ。

さてここからが本論。
ではその「力」をどうやって普段、鍛えたらいいのだろうか。
これを論じ始めれば、数百冊の本に値するさまざまな内容や手法が出てくるだろう。紙幅の関係上、今回はその一つ、『雑談力』を取り上げよう。

人間力の一つ、『雑談力』とは

私がここ15年間、面接官を務めるMBAスクール INSEAD(インシアッド)の応募者評定表には、面白い項目が2つある。
一つは「貴方(面接官のこと)は、この応募者を自分の同僚として採用しますか?」
もう一つは「飛行機の出発が遅れて待合室で3時間待ち。貴方はこの応募者と楽しく過ごせると思いますか?」
前者はなかなかシビアな質問。でも面接官を追い込む非常にいい質問だ。個別の項目で「良い」「悪い」、どう書こうと「で、要は同僚としてどうよ」と、非常に真剣な判断を迫るものだ。
そして後者は、自分との相性(翻ってはINSEADとの相性)やその人の人間性の幅を聞いている質問だ。それが『雑談力』とも言える。
仕事の同僚とであれば、仕事の話、組織の話、上司や部下のグチ、で3時間くらいはどうにかなろう。仮にダメでも見知った仲なら途中で話がとぎれても気まずくもない。
しかし、ほぼ初対面の相手と、ほぼ何もない待合室で、3時間を雑談でつぶせるかどうかというのは、かなり難易度が高い設定だろう。
ここでは仕事以外での「中身(Contents)」と「話術(Communication)」の双方が試される。そもそも相手の興味分野を理解・把握できるか(Communication)、その分野での話のネタをどれだけ持っているか(Contents)、そしてそれらを面白く伝える技を持っているか(Communication)だ。

「中身」強化の2戦術:オタク型と雑学型

雑談力を高めるために、中身の強化と話術の強化のどちらを先に頑張るかは悩ましいところ。ただ話相手が手強ければ手強いほど、中身が重要になるだろう。話術だけでは誤魔化せない。

中身の強化に関して言えば、戦術は二つに分かれる。1. 少数の分野で強烈な深掘りをする(オタク型)か、2. 幅広い分野で浅く知識を蓄える(雑学型)かだ。
オタク型はその分野に、自分が圧倒的な興味があるかどうか次第。それさえあれば突っ走るだけだ。
但し、そのオタク知識を一般化する必要がある。用語の言い換え、客観性、全体感、他の分野との共通性の探究などなど。一芸に秀でたヒトの話は誰が聞いてもタメになるし面白い。そう言わせるためにも「普遍的真理」の探究に努めよう。

さて一方、雑学型。
これを手当たり次第にやっていたら、時間も足りないし浅くなりすぎて「詰まらなく」なる。情報の氾濫に押し流されるだけだ。
ここでは如何に「効率的に」「面白い」ネタを収集するかが勝負。その方法も色々だが、自分で必ず持つべきなのは「選別センス」だろう。例えば、ニュースの短いヘッダーだけを見て「これは面白そう」「これは読まない」と的確に判断できるセンスのことだ。
これを得るための方法として、回り道だがまずコミュニケーション力を鍛えて、というのもある。そして今持っている限られたコンテンツで暫く頑張ってみる。もちろん中身がペケなら話術だけではダメなのだが、でもその内、分かってくる。話すべき「中身」としてどういったものが面白くて、どういったものが詰まらないかが。
それが分かればしめたもの。「面白い」情報の収集効率は飛躍的に上がるだろう。
雑学型は更に、その広い知識の「組合せ」が需要になってくる。世の中の「創造」や「独創」の過半は「組合せ」型のものだという。知識の幅広さを生かし、異分野・異次元・異世界のモノどもをどんどん頭の中で組み合わせよう。
そしてそれを「選別センス」でふるいに掛けていく。数年も経てば「独創的な」知識を多く持てるようになっているだろう。但し、忘れなければ、だが。

真の「社会人」になるために

多くの(特に日本人の)社会人は、その活動ポートフォリオが極端に「仕事」に寄っている。睡眠を除く活動時間の殆どを振り向けているのだから当然とも言える。それでは話すべき中身の幅も深さも育たないし、仕事用の定型的な話術しか身につかない。
人間の活動分野として「仕事」の他にも、「学び」「社会・地域貢献」「友人」「家族」「遊び」などがある。(注1)その各々で一体自分は何を目指し、何をしているだろうか。
我々は「仕事人」でない、「社会人」だ。企業そのものが社会的存在であり、人間もまた社会的存在であり、そういった意味で社会と切り離された仕事一辺倒の個人=仕事人など存在し得ないのだ。
そしてその「社会人レベル」を計る有力な指標は実は、『雑談力』であり、ヒトが見るものも実はそこなのだ。この人は信用できるのか、自分の存在を預けることが出来るのか、そういうことをヒトは雑談の中からこそ感じ取っていく。
「雑談」とは、そんな真剣勝負の場でも、ある。

さて皆さん、社長と雑談、してみませんか?

(注1)田園調布雙葉学園 小林潤一郎教諭の資料より
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