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- 【コラム】組織で働くということ
組織から距離を置く個人
最近、企業組織で働くことに対して、個人のキャリア形成やワーク・ライフ・バランスの観点から、メリットよりもデメリットの方が強調されているようです。
それに伴って、企業組織に縛られずに独立して専門的なサービスを提供する働き方に注目が集まっています。最近、インディペンデント・コントラクターが脚光を浴びたのはその一例でしょう。
企業に勤めるにしても、週末起業というキーワードが流行ったように給料とは別に副収入を得る、あるいは組織の中に居ながらスキルを高めて有利な転職に備えるなど、今所属している企業組織から距離を置いて自立することこそが望ましい、と考える人々は急速に増えています。
確かに、企業組織にフルタイムで雇用されることのデメリットは存在します。終身雇用制度が崩れた現在、特定の企業に依存しすぎることは将来のキャリアを考えると危険だといえるでしょう。また、組織に所属する限り、意に沿わない配属や転勤もありえますし、出勤時間をはじめとするさまざまな規則に縛られることになります。「自由」とは程遠い世界に思えるのも仕方がないかもしれません。
結局、組織の一員として働くのは割に合わないことなのでしょうか?
組織で働くことの価値
筆者は、組織の一員としての立場、ベンチャー企業のマネジメントの一人として組織を運営する立場、そしてフリーランスで独立してサービスを提供する立場、のそれぞれに身を置いてきました。その実感を踏まえると、組織の一員として期待される役割を担い働くことには実は大きな価値があると思うのです。
ひとつは、組織の持つパワーを使ってスケールの大きな仕事をするということです。様々な物事が複雑化した現代、個人が単独で成し遂げられることは、一昔前に比べて一層限られています。例えば、筆者が仕事をしていたコンサルティングの分野も、かつては個人のサービス提供が十分通用していた世界でした(もちろん今も個人サービスは存在します)。しかし、企業活動のグローバル化、そして事業環境変化スピードの高まりなどに伴い、多くの国に拠点と人材を抱えた大規模な組織によるサービスの優位性が高まったと言えます。その優位性は、単に人数が多いから大規模なプロジェクトができる、ということではありません。多様な専門性を持った人材がチームを組みシナジーを生み出す、過去の経験を蓄積し組織的に活用しうるナレッジ・ベースを築く、ということが本質的な優位性の源泉になるのです。
ブランドや信用力も重要な要素でしょう。当然、戦略的で難度の高い仕事は信頼に足る企業に任せる確率が高くなりますから、ブランド力のある組織に所属する個人にとっては、自分の力量をストレッチさせるような挑戦しがいのある仕事ができるチャンスが増えると言えます。
また、人間関係の煩雑さがあっても、チームで物事を進め、さまざまな個性を持った人々とで苦労をともにしながら共通の目標を達成する経験は、大きな人間成長をもたらすはずです。
個人の目標を組織の目標に融合させる
では、個人が組織で働くことの価値を最大限に高めるために、まず何をすべきなのでしょうか。
それは、逆説的に聞こえるかもしれませんが、自分自身の目標や進路をはっきりと定めることです。なぜなら、組織形成の原点に立ち返れば、組織は一人の個人では実現し得ない目標を達成するための手段だからです。
現実には、組織の目標と個人の夢や満足は背反するものとなり、組織の目標を追求するほど個人がその犠牲になり疲弊する、という構図が多く見られます。しかし、今後こうした個人の犠牲の上に成り立つ成長を続けていては、企業組織はいずれ立ちゆかなくなることが目に見えています。そこに危機感を抱き、「いかにして個を活かすか」という経営課題に真剣に取り組み始めた企業も出てきています。
一方、個人サイドにおいては、自分自身の目標や夢をはっきりさせた上で、今働いている組織の戦略や目標との接点を、いかにして見出すかということが重要になるでしょう。組織における処世術を身につけて上手く立ち回るのは、一見したたかな行動に見えますが、結局は低いレベルで自分を組織に同化させていることに他なりません。そうではなく、自己実現の舞台として組織を利用するという、より高次のしたたかさがこれからの組織人に求められるのではないでしょうか。そのためには、まず今働いている企業組織がどこに行こうとしているのかを知り、自分の夢や目標との接点となる活躍の場を見出すことが必要です。さらに、その接点において、自分の強みや特性を活かした仕事ができる状況を自らつくり出すことが求められるのだと思います。
(続く)