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なぜ若手が会社を辞めるのか?

[2006.12.01] 中田 研一郎

七五三問題とは何か?

「七五三問題」という言葉をご存知でしょうか? 中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割の人が、就職してから3年以内に最初に勤めた会社を辞めてしまうという問題です。
採用した企業の立場からは、「最近の若者は全く我慢が足りなくて、簡単に会社を辞めてしまい、何を考えているのか分からない」ということになりますし、学生の立場からは「こんなつまらない仕事をするとは思ってもいなかった。今から10年、20年も我慢しないとやりたかった仕事はさせてもらえないし、給料もあまり上がる見通しもない」と見切りをつけたということでしょう。

年功序列制度は崩壊したのか?

新入社員が、さほど重要ではない仕事からスタートするというのは急に近年始まったことではなく、昔から年功序列の最下位にある新入社員に雑用を含め難易度の低い仕事をさせ、徐々に仕事を覚えていくのが日本企業のいわゆる"on the job training"でした。では昔の新入社員は我慢をした下積みの仕事を、何故最近の新入社員は我慢ができず短期間に辞めてしまうようになったのでしょうか?
理由はいろいろとあるかもしれませんが、辞めるという判断は将来に可能性を見出せないという気持ちの結果でしょう。若者がそのように将来を悲観的に見るのは、年功序列制度の日本の現状と深いかかわりがあります。

近年、日本では年功序列制度が崩壊したと言われていますが、厳密に言うとそれは必ずしも正しくありません。年次管理による結果、平等的な年功序列賃金制度は1990年代に導入された「成果主義的賃金制度」により確かに崩れました。しかし、成果主義賃金制度を導入した企業においても、「昇進昇格制度」は今もなお大半の企業で根強く、年功序列制度に基づいているのです。仕事で高い実績を出せば、昔よりは成果給として人より多い昇給があるかもしれませんが、それほど極端に高い金額ではありません。一方、昇進昇格は依然として年次管理が基本であり、特に大企業においては管理職への昇進が非常に早くなったということはありません。

したがって、大企業においても賃金は定期昇給もなくなり、実績を出さない限り大きな昇給は期待できなくなってしまいました。また、昇進昇格は年次管理の壁に阻まれ、実績を出しても一段ずつしか上がっていきません。一方、仕事の配分についても管理職は仕事の指示をするだけで、自分は実務には手を出さず、下に流していくので、結局新入社員に下積みの仕事ばかりが来ることになります。その反面、成果主義の導入により10年、20年我慢すれば年齢に応じた高い給与をもらえる保証もないということで、大きな失望感を覚えるのでしょう。
どうせ出世の保証がないのなら、長い年月を我慢して実力もつかないままリストラされるリスクを取るより、今のうちに若くても責任を任せてもらえる企業に転職して自分のキャリアを磨きたいと考えるのではないでしょうか。

成果主義と年功序列の"ねじれ"

一方で、成果主義賃金制度においては、成果を出さない限り年をとっても必ずしも昇給しないことが明確になり、他方で、昇進昇格制度では年次管理の為に依然として年をとらない限り昇進昇格できないことが、若者の早期離職の大きな原因なのではないかと考えられます。
年功序列制度のねじれ現象的な変化の結果、賃金は成果主義の名の下に容易に上がらず、昇進昇格は若い限り期待できないという二重の出口のない閉塞感に陥るのでしょう。
単純に若者が我慢する力が弱くなったということではないはずです。

若者のその気持ちが分からないではありませんが、年さえとれば給与が上がることを期待するのは、今の時代においては、やはり現実的ではありません。それが可能であったのは日本経済が毎年10%近い経済成長をして、会社の組織が年々拡大をすることが当たり前であるという極めて幸運な時代背景があったからです。また、年功序列賃金を維持できたのは、中国やソ連、東欧が東西冷戦のために統制管理経済体制にあり、西側諸国と世界マーケットでの市場経済競争に加わっていなかったことも大きな要因です。しかし、今や共産圏だった国々やBRICs(Brazil, Russia, India, China)が世界の資本主義市場経済のプレイヤーとして参加し、日本も30億人にのぼる低賃金の労働力を持つ国々と競争しなければならず、国際競争力を維持するのは容易ではなくなりました。
以上のような理由で、日本企業は90年代のバブル崩壊後、年功序列の賃金体系を維持することは困難となり、成果主義に切り替えたわけです。従って、今の世界経済の競争状況から考えて、日本企業が再度年功序列賃金制度に戻るということは近未来には起こらないでしょう。

年次管理に基づく昇進昇格制度だけが年功序列賃金の残滓として生き残っている現状が、いつどのように変わっていくのかはわかりませんので、3年で早期離職をすることが一概に良いとか悪いと断定することはできません。
仕事をしていく上で、一番大事なこと ~自己確立~

仕事をしていく上で一番大事なことは、本人が仕事の実力を付け、仕事を通して自らのIdentityを確立することです。3年であれ5年であれ、その間に如何につまらない、あるいはきつい仕事であっても、本人がどれだけ自己を確立して自ら進んで困難に挑戦し、強い自分を作り上げたかということが大事なのです。そのような自己確立ができていれば、自ら課題を見いだし、解決することが出来るようになります。そして転職せずとも自発的にそのサイクルを繰り返し、更に力をつけていくことができます。

しかし、単に将来の昇給の見込みがないとか、毎日の仕事がつまらないというような現実から逃避した気持ちでの転職は、自分にあった仕事をずっと探し続ける「青い鳥症候群」に陥っています。そういった転職者の多くは自己確立していないことに本人が気づかないので同じ事を繰り返し、キャリアアップではなく、キャリアダウンになる恐れがある...というようなことを伝えていくのも重要なことです。

新卒の10人に3人は、3年以内に離職します。新卒の採用コストは決して安いものではなく、会社経営者・人事採用担当者にとってもこれは非常に頭の痛い事実です。当の新卒社員もまさか自分が3年以内に離職するとは夢にも思っていないでしょう。しかし、現実は36%の確率で3年以内に離職が起こっているのです。

右肩上がりの高度成長が終わり、年功序列制度が崩壊した今でも、大学を卒業してから30代半ばくらいまでの間にどれだけ自己を確立し、仕事力を身につけるかが重要であることに変わりはありません。その成否により40代以降の人生は大きく変わります。

「仕事は自分にとっての本質」ではなく「役者の舞台衣装である」ということを認識させ、一番大事な「自己確立」を目標に自分を磨かせる。そして、その努力を一生続けることのできる人が、充実した人生を送ることができるということを絶えず理解させ続ける必要があるといえます。

以上
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