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戦略性と人間力を兼ね備えた人事・人材開発のプロを育てるには?

[2006.11.01] 中田 研一郎

現在、企業で求められているのは組織のカルチャーを理解し、時代の変化を読み取れる人事・人材開発のプロフェッショナルである。かつては、人事は企業の中でも最も保守的で、制度や規定、ルールに固執する傾向が強いと思われてきた。しかしながら、今や経営の一部としての人事の役割の重要性が高まっており、戦略性と人の心を扱う人事のプロフェッショナルの育成は急務である。著者が、株式会社ソニーで2001年から人事戦略統括部長として人事改革を行った経験から、そのような人事のプロを育てる勘どころについて考えてみたい。

これまでの人事が抱える問題点

組織に変革が求められている現在、人事にも企業価値を「人」の側面から増大させる人事のプロが求められている。しかし現状では、多くの企業が変革に成功しているとはいい難い状況にある。これまでの人事のあり方に、問題はなかったのだろうか。時代の変化に合わせて組織を整えようとする場合、とかく人事担当者にとって"他社の動向"、他社がどういった制度をどう進めているのかということが、大きな関心事がなりがちである。ひたすら最新事例を集め、ベンチマークして、時代に乗り遅れないよう自社にも同じようなものを導入しようとする傾向がある。しかし、自社のニーズや実態を把握せぬまま、他の事例をそのまま採り入れ、失敗している例も少なくない。日本の企業が一斉に採り入れた成果主義は、その典型的な例である。企業のカルチャー、人でいえば人格にあたる"社格"を人事が十分に理解し咀嚼していないと、変革はうまくいかないのだ。さらに、人事担当者が外部のコンサルタントに依存し過ぎてしまうことにも問題がある。コンサルタントは豊富な知識を持っているため、ノウハウの提供や情報源として人事がうまく活用できれば良いが、企業のDNAを持たず、企業カルチャーの理解が深いとはいえないコンサルタントに、人事問題を丸投げしてしまうと、決して良い結果は得られない。表面的には制度や仕組みが変わっても、風土に根付かなかったり、社員や経営者にとっては重要性を感じられないで、人事の自己満足で終わってしまう変更に留まってしまったりするのである。つまり、人事改革が企業の理念や人の心にまで踏み込めず、制度論に終始してしまっているケースがよく見られる。女性活用とほぼ同義になってしまっているダイバーシティマネジメント、ノー残業デイ遵守を呼びかけるだけのワークライフバランス、個人の問題を放置したままのモチベーション議論など、本質を理解されないまま制度だけが導入され、形骸化してしまうような問題点は少なくない。私がソニーで種々の施策を打つ際に、心を砕いてきたのは組織の「変えるべきものと、変えてはならないもの」を見分けること、その視点に立って、組織の力を最大化させるために人事は何をすべきか、自問自答することだった。この視点は、人事とトップマネジメントが共有すべきものであり、それなくしてコンサルタント頼みでは、人事の責任放棄と言っても過言ではない。企業のDNAを理解した人事、広い視野を持つ人事、人の心の動きをつかめる人事。こうした人材の育成が急務となっている。

これからの人事に求められること

まず、経営の一部として人事が機能するためには、本質を理解した組織戦略・制度の議論が重要となる。経営的視点に立ち、戦略的に人事の変革を進める必要があるのである。どのように進めるべきか?下図にある「人事の構造改革のフレームワーク」を使って説明してみたい。上から3層目以降にある人事制度、人事業務プロセス、人事統合情報システムなどは確かに重要だが、そこだけ目新しいものに変えても意味を成さない。「仏作って魂入れず」で下手をすれば、改悪になってしまう。まずは第1層の人事マネジメント理念を明確にする必要がある。自社がどこに向かっていて、そのため、どのような人材像を求めているのか、という原点に立ち戻った議論が必要であり、そのような議論の過程を通して、「経営戦略」と「人事戦略」の連携が取れていくのである。それに基づいて、採用、配置、評価、教育など個々の施策について「なにをどうする」という明確なポリシーと評価指標を設定していく。そして、その理念やポリシーを実現するために、第3層、第4層の人事制度、プロセス、情報システムなどがどうあるべきか、現状の問題点を洗い出しながら、刷新していく。このように全体のフレームワークが連動して動くことで初めて、組織にフィットしたものとして各施策が根付いていくのである。
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次に、これからの時代の人事は、戦略・制度の人事のハード面の議論とともに、社員ひとりひとりの「心」を扱う人事のソフト面の議論にも通じている必要がある。なぜならば、時代の変化に柔軟、かつ迅速に対応できる組織基盤を構築していくためには、Identityを確立した個人の自立と、Governanceを確立した組織の自律がバランスよく実現されていなければならないからである。組織の柔軟性を高めるべく、固定費を抑えるための正規採用人員比率の引き下げ、ITを活用した組織のフラット化、成果主義の導入、戦略的アウトソーシングの導入、終身雇用型退職金制度の見直しなどが各社で先行して行われてきた。しかし、前提条件となるべき個人の自立や動機付けについては十分な議論がなされぬまま、むしろ、ないがしろにされてきてはいないか。企業における社員の無気力、ストレスの増加が本格的に問題視されるようになってきた。これは単なる成果主義の弊害としては片付けられない。情報化社会に突入して、仕事の処理速度や難易度も格段に上がってきた。また、先輩が後輩に木目細やかに指導する余裕もなくなり、インターネットの普及により、フェイス・トゥ・フェイスで話し合う機会そのものも減ってきてしまった。したがって、求められる仕事のレベルとスピードが上がる一方で、個人が自然に気付き、学ぶ仕組みを用意することも難しい時代になっているのである。このように、『個人」に掛かる負荷は大きく、組織の成長と個人の成長実感が結びつきにくくなっているのが現状だと言える。もはや、報酬制度や評価制度のみで個人をモチベートすることは難しくなってきている。近年「人間力」という言葉をよく耳にするようになったが、今すぐ使えるスキル・知識を短期的に詰め込む教育だけではなく、個人がIdentityを確立し、環境に振り回されることなく主体的に学び、キャリアを通して自らを成長させることのできる、自立型プロフェッショナルとなるよう、マインドセットや意識を醸成する教育、研修が必要である。今までは、わざわざ教える必要があるものとして意識されてこなかった個人の人間力の向上も、組織の継続的な成長のためには無視できない命題として、人事が真剣に取り組む必要がある。同時に、コーチングやメンターといった個人の主体性を伸ばすマネジメント、心のケアを考えるメンタルヘルス、なども企業において考えるべき、不可欠な要素である。こういった流れを考えると、今後、企業で人事・人材開発に携わる担当者は、人の心理やモチベーションに関する深い理解が求められてくる。そして、人事の担当者は仕事とは何か?自立した人間としてどういう要件が必要か?人を育成するということはどういうことか?など仕事を通して経験する喜びや学びの本質を、自ら社員に熱く語る人であって欲しいと思う。

上記のような、人事のプロフェッショナルを育成すべく、私が塾長を務める『青山人材塾』の第3期生を現在募集中。 詳細は、こちら。

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