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意思決定力を磨く

[2006.10.23] 小林 知巳  プロフィール

意思決定力を、どのように育成すればよいのかについて述べる前に、精度の高い意思決定のエッセンスについて考えてみましょう。
意思決定の精度を高める上で、まず大事なポイントは、判断の対象となる課題を「網羅的に分解する」ということです。例えば、「売上が上がらないが、どうすればよいのか?」という課題に対して、例えば「価格を下げる」といった結論を簡単に出してしまいがちですが、これは非常に危険です。なぜなら売上向上のための手段には、価格調整だけでなく、営業人員の増強や、広告・宣伝の見直し、ターゲット顧客の変更、さらには商品そのものの改良など、多様な選択肢が存在するにも関わらず、それらを無視してしまうことになるからです。このような意思決定の視野の偏りは、「売上の向上」という課題が大きすぎるために生じるので、まず売上に影響する要素を網羅的に分解することが不可欠です。

次のポイントは、できるだけ多くの情報を活用することです。限られた時間の中で、どれだけ多くの鮮度の高い情報を参照して意思決定できるかが、その精度を大きく左右するのです。

ここまで読まれた方の中には、「あまりたくさんの情報に接したり、いろいろな選択肢をもとに議論ばかりしていると、効率が悪いのではないか?」という疑問を持たれた方がいらっしゃるかもしれません。しかし、実際は逆なのです。例えば、少し古い研究ですが、コンピュータ業界を例に、意思決定のスピードと利用する情報量、意思決定の選択肢数などの関係を探ったものがあります。
簡単に述べると次のような結論でした。

1) 参照する情報量が多いほど、意思決定のスピードは速まる。
2) 用意する選択肢の数が多いほど意思決定のスピードは速まる。
3) 意思決定スピードの速い企業は業績も高い。

例えば選択肢が多いと、あるひとつの選択肢が行き詰まってもすぐ次の選択肢の検討に移れるため、意思決定のスピードは向上します。もっとも時間を浪費するのは、多くの選択肢を検討することではなく腕組みして途方にくれることなのです。
また、選択肢の多さは、特定の選択肢への思い入れを防ぐ効果もあるので、判断のバランスをとりやすくなるというメリットもあります。
情報量については、多くの情報に接し続けると意思決定者の直感が磨かれ、すばやく問題を特定することができるようになるため、決定スピードがあがると分析されていました。
そして、こうしたセオリーに則ってスピーディーに下した意思決定は、結果的に精度も高いものになり、業績向上につながるのです。

意思決定におけるポイントは、選択肢や情報量だけではありません。他にも「決定の基準を明確化し、判断に一貫性を持たせる」、あるいは「結果を予測し、予測と実績とのかい離を分析して意思決定プロセスを改善する」ことも重要です。なぜなら、経営における意思決定は「一発勝負」ではなく、反復しながらヒット率を上げることが求められるからです。

以上述べたポイントは、座学で学んだだけでは身につきません。もちろん方法論やツールについての知識は必要ですが、ある程度知識を習得した後は、実践しながら学習する(learning by doing)プロセスが不可欠です。特に失敗の経験が意思決定力の向上に大きく寄与することが多いのですが、現実の仕事における意思決定の失敗は許されるものではありません。
そこで有効な育成手段として、シミュレーション型の学習プログラムが挙げられます。2006年1月号の特集記事『良質の疑似体験が経営人材を育てる』でも述べていますが、臨場感のある擬似環境において、微妙な判断に悩んだり、見通しがはずれて失敗することを通じ、極めて多くの「経験知」を得ることができ、さらに、講義における意思決定理論の習得と、そのシミュレーションにおける実践を適切に組み合わせることで、知識を咀嚼し体系化することができます。
現場におけるOJT任せではなく、様々な学習プログラムの活用によって、意図的に意思決定力を育成することは、激しい環境変化を生き延びる上で優先度の高い経営課題だと言えます。


1 Eisenhardt K.M.(1989) Making Fast Strategic Decisions in High-Velocity Environments.

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