経営・人事コラム

人事コラム バックナンバー

「ポジティブ心理学の第一人者が教える楽観主義の勧め」その1

[2006.10.19] 佐々木 郷美

今回は米国ペンシルバニア大学教授でポジティブ心理学の第一人者と言われているマーティン・セリグマン氏の著書"Learned Optimism"からそのエッセンスを紹介したいと思う。

従来の心理学は心の病の研究、つまり症状や発病原因の特定、病気の進行や治療法についての研究が中心だった。それに対して「ポジティブ心理学」は病気や悩みを引き起こすネガティブな感情に焦点を当てるのではなく、人間の本来のポジティブな感情、喜びや達成感や自信、楽観思考などに焦点を当て、それらを伸ばし開発する方法を研究したものである。本書はその中でオプティミズム(楽観主義)の習得を説いている。

なぜ、今、楽観主義か?

 "Learned Optimism"の邦題は『オプティミストはなぜ成功するか』(講談社文庫)となっているが私はこの題は正確にはこの本の内容を表してはいないように思う。オプティミストだけが人生・仕事で成功する、オプティミストでなければ成功しない、と断言しようとしている本ではない。
楽観主義が場面や分野によっては成功要因になったり、パフォーマンスとの相関があったりすることもあるが、楽観主義にも良い面/悪い面があるのであり、単純にお気楽に生きることを推奨している訳では決してない。ただし、あまりに悲観主義になることが簡単な社会に生きている我々が精神的なバランスを保つために楽観的なものの考え方や姿勢を習得(Learned)することの有効性とその具体的な方法、テクニックを示しているのである。

 原作が書かれたのは1991年のアメリカ。その頃までにアメリカは目覚しい経済成長を遂げ、世界一豊かな経済大国となった。その過程で個人の力は増大し、かつてないほどの経済力を手に入れ、本人さえその気になれば色んなことが可能になった。ただし選択の自由の裏には自己責任が伴う。つまり思うように行かないことがあったら個人が自分を責め、自らを追い込む傾向が強くなったことも意味していた。
 一方で広まる社会不安と政治不信、家庭の崩壊の影で離婚率は上がり続け出生率も低下を続ける。企業と個人の関係も変化し会社は一生の雇用をもはや保障してくれない。このような背景から個人は拠り所をなくし、ますます自分自身を頼るしかなくなった。個人主義の浸透とほぼ時を同じくして蔓延するうつ病。アメリカでは重症うつ病患者が過去50年で10倍に増加した。経済の成長とともに個人が大きな自由と力を手に入れた一方で、個人へのプレッシャーと精神的負担が大きくなったのが1991年のアメリカだった。

 この状況は近年の日本の状況とも似ているのではないだろうか?構造改革により様々な制約が取り除かれ経済の自由競争が進みビジネスチャンスは広がり、色んなことが可能になりつつある。一方で首都圏と地域、個人間で広がる経済格差、希望格差。チャンスや機会に恵まれる世の中にはなったが、将来への希望や展望を持ち続けるのも難しくなりつつある。その中で自己責任で人生を切り開いていくことが求められる我々は自分を責め悲観的になりやすい傾向が強まっていることを自覚しつつ、意図的に楽観的なものの見方を身につける必要がある、ということなのであろうと思う。


どのように、悲観から楽観へ視点をシフトすれば良いのか?

(1)自分の悲観的な'言い回し'に気付く。
 悪い出来事(自分にとって不愉快な出来事。苛々させられる出来事。)に対して自分のなかで下記のような言い回しをしていないか、チェックする。

 ・個人的  「私が悪いのだ」
 ・普遍的  「いつも、なにやってもそうだ」
 ・永続的  「ずっとこういう状態が続くだろう」

 例えば失恋をした場合の言い回しとして「私は異性には好かれないのだ」(普遍的)
 「私はきっと、理想の人には永遠に巡りあえないのだろう」(永続的)「私はそもそも愛されない人間なのだ」(個人的)などが挙げられる。こういう言い回しを自分の中で繰り返していたらどうなるだろう?だんだん気が滅入っていくのは当然のことながら、何の解決にもならない。ところが意外に私達は自分で自分に対してこのような言い回しを使っているのである。まず、そこに気付くのが第1ステップである。

(2)言い回しを書き換える
 上記の言い回しはつまり自分の中の「思い込み」である。それを書き出して書き換える訓練をすると良い。
 下記のようなステップで行える。

 A 困った状況 (Adversity)
 B思い込み (Belief)
 C結果 (Consequence)
※ここで、ストップをかける!そして下記のように書き換える。

 D反論  (Disputation)
E 元気付け (Energize)

例えば

 A 学校の成績が悪かった。
 B 私の成績はクラスで一番悪いに違いない。私は勉強するには歳を取りすぎているのだ。
   そもそも勉強には向いていない。何をやったって無駄だ。
 C 学習意欲がうせ、消極的になる。
 D いや、自分より成績が悪かった人もクラスにはいた。今回は明らかに試験前に準備する
   時間が足りなかった。また予想していない分野からの出題も多かった。
 E 今回の経験を教訓として、次回からの試験対策につなげようと思う。 

※のタイミングでストップをかけてDにつなげるのが結構難しい。そのために以下のことに気を付けると良い。

 ・ 距離を置く
 ・事実を見る。証拠はあるのか?
 ・別の考え方はできないか?
 ・その考え方は有効か?

 上記の学校の成績の例にしても事実を直視すれば自分が最悪だ!と思っていても自分より悪い点数の人だっていたかもしれない。仮に自分の成績が最下位だったとしても、そう考えることで何が生み出されるだろうか?別の考え方をすることはできないだろうか?と考えてみることで、色んな見方が可能になってくるのだ。このように考え方に幅を持たせ、その中から取捨選択する習慣を身に付けるのは、大変有効な方法である。

参考:『オプティミストはなぜ成功するか』(講談社文庫)

» 経営・人事コラムトップに戻る


お問い合わせ・資料請求
人材育成の課題
キャリア開発

キャリア開発

個人の働きがいと組織への貢献を両立するキャリア開発を支援します。

リーダーシップ・マネジメント開発

リーダーシップ・マネジメント開発

マネジャーに必要不可欠なリーダーシップとマネジメント力を養成します。

コミュニケーション開発

コミュニケーション開発

組織や仕事に変化を起こすコミュニケーション力を養成します。

組織開発

組織開発

ビジョンと価値観を共有し成果を高める組織創りを支援します。

営業力開発

営業力開発

お客さまと自社の双方に大きな価値をもたらすことのできる提案営業力、組織営業力を開発します。

経営力開発

経営力開発

ビジネスプランの立案に必要となる知識と実践的なスキルを養成します。

人事向けメルマガ登録

PAGE UP