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Professional Personの構図 (その3)

[2006.09.22] 中田 研一郎

Professional Personの構図について、第一回目で「知」について語り、第二回目で「問題解決力」について述べた。今回は責任感について語り、「Professional Personの構図」の全体像のまとめをしてみたい。

仕事のプロといわれる人は、いかなる困難があろうと必ず最後には結果を出す責任感を持っている。その責任感を支えるのが「意思」である。 "Where there's a will, there's a way"(精神一倒何事か成らざらん)という言葉は若き日に習った英語の授業でよく知っているであろう。しかし、その意味するところはやる気さえあればなんでも出来るというほど軽くはない。仕事とはそもそも様々な困難から成り立っている。企業の経済活動をする上で、人、もの、金、情報などの経営資源には必ず制約があり、これらを無条件に使えることはありえない。それらの制約条件に加えて時間の制約、競争相手との力関係など、いざ仕事を始めれば無数の制約が次々に起こってくる。それらはすべて仕事をする上での問題である。先に述べたプロフェッショナルな仕事をするために必要な「スキルや知識」を習得し、コンセプト把握力、論理力、意見形成力からなる「問題解決力」を十分に身につけたとしても、最後にこの責任感がなければ仕事の結果を出すことはできない。

責任感は、単に自分の責任として認識しているかどうかという感情レベルの問題ではなく、まさに本人の全人格をかけた意思の力があるかどうかが仕事では問われる。私はそれを「Identityの確立」と称している。日本語で分かりやすく言えば「自己確立」である。「Identityの確立」を自己同一性、自立性、自律性の三つの観点から説明してみたい。

まず自己確立のためには自己同一性が求められる。仕事には本人の思想や哲学が知らないうちに反映されるが、そこに首尾一貫した立場が貫かれていなければ、人の信用を得ることは出来ない。様々な利害関係の中で勝ち馬に乗ることばかり考えて右顧左眄するのでは、自分の一貫した主義主張は人には伝わらない。日本の社会は「和をもって尊しとなす」という社会軌範が非常に強いので、知らず知らずのうちに右を見て左を見て当たり障りのない意見を言ってしまうことが多い。確かに人との協調性は大事であるが、人の意見を徒に気にして付和雷同し八方美人になったのでは、前例のない新しい仕事を達成することは出来ない。人と意見を異にするには勇気がいる。しかし、いかなる状況であれ、自分の意見の中に本人の人格が投影され首尾一貫性があれば、意見が異なることだけを理由にその人が排斥されることはない。一見対立して気まずい雰囲気になることもあるかもしれないが、そこは表現方法に工夫を凝らして決定的な対立にならないようにしながらも自分の意見は厳然として保持すべきである。それが結局その人の自己同一性を明らかにして、長い目で見ればその人の信用となっていくのである。

次に自立性が求められる。仕事が困難に直面してうまくいかなくなったとき、その原因を人のせいにし、あるいは環境の諸条件のせいにすることはたやすい。しかし、それらの原因分析を踏まえた上で最終的に自分の責任として受け止めていく人が自立した人である。自分が人や組織に依存しているかどうかは、会社であれば定年退職のときに嫌でも明らかになってしまう。会社の組織で様々な役職につき権限を持ち、それらを駆使して仕事をしていくと自分が自立しているという気持ちになる。決して自分は組織に依存しているのではなく、組織を引っ張っているという気持ちになるであろう。しかし、定年退職し名刺の肩書きがなくなり、部下も上司も同僚もいなくなったとき、自分に何が出来て何をしたいかが問われるのである。その時、自分に答えのある人が自立している証拠となる。地位も名誉も肩書きもすべて取り去ったときの裸の人間として、やるべきことを持ち実行できるかどうか、それが自分にとって自立していることの踏み絵である。したがって、自立することは、若い人がプロの仕事人になるために必要な条件というよりは、生きていく限り絶対に必要なことであるといえる。

団塊の世代が2007年から一斉に且つ大量に定年退職するので、最近定年後の生きがいに関する議論が活発に行われている。しかし、いくら議論をしても定年になってから突然自立するのは容易ではない。それは議論をして頭で理解する問題ではなく、定年までの長い年月にその人がどのようなスタンスで仕事をしてきたかによって殆ど決まってしまうからである。会社の組織の中で常に自ら課題を設定し、新たなことに挑戦して結果を出してきた人にとっては、定年後も同様に新たな課題を自ら見つけ更なる挑戦をしていくことができる。むしろ組織的な制約条件が軽くなって会社にいた時よりも自由に活躍することが出来るともいえる。そのような仕事の仕方をしないで、人から与えられた仕事を受身でこなしてきただけであれば、突然たった一人で課題設定をするように言われても、戸惑うしかないであろう。これが人生の現実である。そうであればこそ、今会社で仕事をしているときに自立して生きていくことを身につけなければならない。

次に自己確立に必要なのは「自律」である。自立は英語で"independent"、自律は"discipline"と"autonomy"を兼ね備えた意味である。最近、会社における求める人材像として"セルフマネジメント"という言葉が良く使われるが、まさに今の時代は自律した人材が求められている。それは経済を取り巻く環境が1990年代以降にインターネットの普及により大きく変わり、従来では考えられないほどビジネスの変化が早くなったことに深く関係している。

会社のトップとスタッフが作成した経営戦略が短期間に通用しなくなるほど変化が激しいので、その変化についていくためにはバジェットや戦略を機動的に修正して市場の早い動きに対応していかなければならない。トップの指示を待つよりも組織の構成員が自律性を持って臨機応変に適確な手を打っていくことが生き残りの条件になってきたのである。したがって、組織そのものも、かつての年功序列のヒエラルキーに基づく命令系統にかわり、トップと末端が直結したフラットな組織のほうが変化に対応しやすくなっている。そのような組織においては、社員の一人ひとりが自律性をもたなければ組織が機能しないので、会社が自律性のある社員を求めるのは必然ともいえる。

以上のような「自己同一性」、「自立性」、「自律性」を自分の中に調和をもって確立している人を「Identityの確立」した人というのである。

最初に述べたスキルと知識はknow―howを形成し、第二、第三に述べた問題解決力と責任感の二つはknow―whatを形成する。自分のキャリア形成のために資格を沢山取ることを目標にしている人を良く見かけるが、それはknow―howさえあれば、プロになれると勘違いしているのではないだろうか。プロになるためにはknow―howが不可欠である。しかし、それは必要条件ではあっても十分条件ではない。何をいつどのように行うのかすべて自分で決め、決めるだけではなくてそれを結果が出るまでやりぬくことが必要で、それはknow―whatと言われる。このknow―how とknow―whatを兼ね備えて常に再現性を持って成果を出す能力を人事ではコンピテンシーというのである。Professional personとは、このようなコンピテンシーを常に発揮している人のことに他ならない。

所詮、プロの仕事人になるかどうかは自分の生き方にかかわってくることなのだから、時には日々の忙しい仕事の手を休め、自分がスキルに始まって Identityの確立に終わる下記の図に表された要素を過不足なく備えているかどうか自己点検してみてはどうだろう。定年になってから考えるのでは遅すぎるし、充実した人生を送るにはこれらの人格形成が不可欠だからである。

以上

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