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- 【コラム】守りを固めるマネジメント
経営やマネジメントに関する書籍や文献には、どちらかというと「いかに攻めるか」という観点から書かれたものが多いように感じます。
例えば、いかに自社製品やサービスを他社と差別化するか、いかにして収益性の高いビジネスモデルを確立するか、あるいはいかにして有利な市場に参入するか。。。など。もちろんそれらが、企業を成長させる上で、重要なテーマであることは言うまでもありません。
しかし一方で、「いかに守るか」という観点が、やや軽んじられる傾向にあるのではないか、と思えてなりません。不祥事を防げなかった、大事な意思決定を誤った、小さな判断ミスが次のミスを呼び迷走してしまったなど、実は攻める以前に、守りの不手際で躓く企業が後を絶たないという事実が、それを物語っているのです。
最近、多くの人々が熱狂したサッカーのワールドカップでも、上位に進出したチームは攻撃力もさることながら、ディフェンス力に極めて優れていることを、サッカーには全くの素人である私も痛感しました。強いチームは共通して失点が少ないのです。
スポーツにおいても経営においても、攻めと守りは、実績を生むために欠けてはならない車の両輪だと言えます。
では、経営におけるディフェンスとは何でしょうか?
例を挙げれば、意思決定のミスを防ぐ、リスクやチャンスの見逃しを防ぐ、中核をなす人材の流出を防ぐ、などです。つまり、一旦生ずるとそのリカバリーに多大なコストがかかるようなロスを未然に防ぐということに他なりません。
経営の守りを固めるために、それほど特殊な能力が必要なわけではありません。むしろ、マネジメントの基本原則を愚直に実践することによって実現できることだと言えます。例えば、次のようなものです。
-意思決定において、多くの情報を活用し、多様な視点から様々な選択肢を吟味する
-良い情報も悪い情報もスクリーニングされずに経営陣に到達する仕組みをつくる
-経営の意思が即時に歪みなく行き渡る環境をつくる
-「良貨が悪貨を駆逐する」評価・処遇制度をつくる(これが逆になる企業が少なくない)
...etc.
いずれもマネジメント上の基本セオリーといって良いものであり、ひとつひとつに新味があるわけではありません。
ただ、大事なことは個別の仕掛けを散発的につくるのではなく、守りを固めるという発想から全社的なメカニズムを体系的につくるということだと考えます。多くの企業において、こうした仕組みは、一旦失敗してしまってから慌ててパッチワーク的に作られたり、外部からの圧力によって横並びの発想で構築されがちです。日本版SOX法が施行されるから専門家を頼って内部統制システム作りに走るという動きなどはその一例でしょう。しかし、そうしたアプローチだけでは、形式的に体裁を取り繕うような対応に偏ってしまい、真に自社の守りを固めるマネジメントは実現しません。効果的なディフェンス・メカニズムを構築するためには、まず自社の成長を阻害するリスクを自身でしっかりと見極める必要があります。その上で、制度などのハード面のみならず、人材スキルなどのソフト面も併せて強化していかなければなりません。
すなわち、「ディフェンスに優れた人材」をもっと意識して育成する必要があるのです。このタイプの人材の重要な要件は、バランスの取れた意思決定力です。不確実性の高い環境の中で、企業が足をすくわれずに生き残っていくためには、様々な局面で的確な意思決定を行うことが不可欠です。もちろん意思決定に「正解」があるわけではありませんが、その精度を高めることは重要であり、自己流ではなく原理原則に則った意思決定ができるスキルが求められます。従来、こうしたスキルはOJTで体験を通じて会得することがほとんどでした。しかし、環境変化のスピードが格段に高まっている現在、それでは不十分なのではないでしょうか。企業として、意思決定力を磨くためのトレーニングに力を入れることが重要だと考えています。
-続く-