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社員のキャリア自律を支援せよ

[2006.07.01] 花田 光世 (慶應義塾大学 キャリアリソースラボラトリー 代表)

今回は、慶應義塾大学 キャリアリソースラボラトリー代表の花田光世先生に、ダイバーシティマネジメントにおけるキャリア支援のあり方についてお話を伺いしました。

ダイバーシティマネジメントが実現された組織では、個人の自立が不可欠であると言われています

そうですね。ただ、私は個人の「自立」と「自律」を分けて考えるべきだと思っています。「自立」とは、自己実現のために自分のやりたいことを見極め、それを達成するための目標を設定し、自らの力で目標に到達、満足感を得るということです。一方、「自律」とは、自分が達成したい目標を意識しつつも、周囲からの期待、組織における自分の役割などを理解し、自分を磨いていくということだと言えます。
ダイバーシティマネジメントが実現された組織においては、個人の「自律」が求められます。自分がやりたいことを念頭に、会社、上司、同僚、部下などから求められる期待を理解し、それを踏まえた目標の設定を行う必要があります。自分の意思と、周囲からの期待とのバランスが大切だということですね。
現在、女性やシニア層の活用が注目されていますが、彼らの現状としては、高めの目標にチャレンジすることを最初からあきらめていたり、逆に周囲の期待に流され、自分の限界を超えたひどく高い目標を設定して疲弊したりする傾向があると思います。

企業側にはどのようなサポートが求められるでしょうか?

個人が仕事を通じて能力を伸ばせる環境を整えることが必要ですね。組織の視点から期待をすることも大切ですが、純粋に個人の視点からのサポートを行う機能が現在の企業にはありません。例えば、人事部や現場の上司は組織の視点から社員に求めることを言うのは当たり前です。こういう人たちに、個人の視点もバランスよく持つことを要求するのは現実問題、難しい。
最もわかりやすい例が、FA制度です。多くの企業ではこの制度がうまく機能していません。その理由は、FA制度を利用した個人が自分で全ての責任を負わなければいけないからです。「本当にこのポストに応募することが今の自分にとってもいいことなのか?」「ポストに応募し、仮に面接に落ちてもキャリア上支障がないかどうか」といった個人の視点からのサポートがない。当然のことながら、所属する部門の上司には相談できませんから、そもそも応募することができなかったり、応募したが異動が実現できなかったためにモチベーションダウンにつながってしまったり、といったマイナスインパクトが出てきてしまいます。したがって、組織側のしがらみがない、メンターやキャリアアドバイザーという役割が求められてくると私は思っています。

徹底的に個人の側に立ったサポートが必要であるということですね。メンター、及びキャリアアドバイザーの役割についてもう少し教えていただけますか?

まず、メンターとは、キャリアに関する専門的な能力を持っている必要はありませんが、ビジネス経験がある先輩として、人間力や対応力に優れている必要があります。こういった先輩からのアドバイスが本人に重要な気づきを与えることが多い。こういう言い方をすると、「メンターとは随分と難しい役割だな」と思われるかもしれませんが、きちんと本人の話を聴く能力を持っていればできることだと思います。これは昔から日本企業がもっていた良さであるともいえます。但し、飲み会の場などで「自分の時はこうだった・・・」とお説教を始めてもらっては困りますけどね。
そして、キャリアアドバイザーは、本人がやりたいことを理解し、周囲の期待を踏まえた上でキャリアオプションを示してあげることが主な役割です。キャリアアドバイザーのカスタマーはあくまでも「個人」であり、その個人が、最も良い選択を行う支援をするのが彼らの役割です。現状を客観的にフィードバックし、周囲の期待を理解することを助け、ありたい姿へと近づくためのステップを支援します。仮に、議論を重ねて、オプションが組織外にしか存在しない場合には、退職を決意するプロセスをサポートしても良いと思います。
先ほどのFA制度の例でいきますと、キャノンでは応募した個人に対して社内の専門家が面談を行い、スクリーニングをかけています。FAに応募する社員にとって、その選択が本当に良いものなのかどうか、面談を通して見極めようと努力しているのです。

現在、先生は「キャリアアドバイザー養成講座」でこういった役割を担う人材の育成をされていらっしゃいますね。企業におけるキャリア支援の現状をどうご覧になりますか?

まだまだ機能しているとは言い難いですね。こういった役割を果たすことができる人材を育成する講座も増え、資格保持者も多いですが、企業の中で活躍できる状況にはなっていません。その理由は、いくつか考えられます。
まず、企業側の取り組み姿勢があります。専門教育を受けたから、ということでキャリアアドバイザーにその企画運営全てを丸投げしてしまう傾向があります。本来であれば人事制度や現場も巻き込んだ仕組みとして運用しなければならないのですが、ひとまずキャリアアドバイザーというポストを設けて、そこに人をアサインしただけ、という状況になることが多い。これでは、どんなに志の高いキャリアアドバイザーがいたとしても、実現可能性は低くなってしまいます。
それから、キャリアアドバイザー自身も、自らの役割をきちんと認識できていないことがありますね。彼らの役割は、あくまでも「ウェルネス・サポート」です。社員がモチベーションを高め、より良いキャリア選択ができるようサポートするのがミッションであるはずなのですが、どうしても個人の心の問題に入っていく傾向が見られます。アドバイザーの役割はカウンセリングではありません。心の問題は、心を扱う専門家に委ねることが求められます。この問題は、アドバイザーに対する継続的な教育機会がまだ少ないことに起因するともいえます。
最後にきちんと社員に対するキャリア教育を行えていない点があげられます。本人が自分のなりたい姿を見つけていく上では自己理解が不可欠です。最近では、自己理解を深めるためのトレーニングが企業でも行われるようになってきていますが、自分のゴールを設定することができるほどの自己理解は、短時間ではとても難しい。本来であれば4~5日程度、じっくりやっても良いくらいですが、現状だとこういったトレーニングは「怪しい」「宗教的である」というイメージが先行してしまい、なかなか受け入れられないところがあるのでしょう。こういった教育の重要性を企業が認識して行動に移していただくことも重要なポイントです。このようなトレーニングは人事部ではなくて、キャリアサポートセンターのような機関が行っても良いと思います。
なるほど。キャリアアドバイザーが担う役割は大きいですね。

大企業では、こういった組織を自社内で立ち上げて運営する努力を始めています。これから少しずつノウハウを身につけていく段階です。キャリアの悩みや相談があった際、その対応が社内でたらい回しにならないよう、コンシェルジェ的な機能を担う組織が必要だと思います。今後は、こういった機能を提供するアウトソーサーも増えてくると思いますよ。

ありがとうございました!

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