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Professional Personの構図

[2006.06.21] 中田 研一郎

経済産業省では、各企業が求める人材像や職場で求める能力についての情報を集め同省のホームページで公開している。

すなわち、企業が求める人材像については、業種や働き方、企業によって、それぞれ重視する能力が異なるので、企業が求める能力を社会人基礎力という「共通言語」によって示し、その違いを明らかにすることによって、就職・採用時のミスマッチ等の防止に役立てようとしているのであ。

同ホームページでは、社会人基礎力を構成する能力として、下記の3つを挙げている。

(1)「前に踏み出す力(アクション)」

~一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力~

実社会の仕事において、答えは一つに決まっておらず、試行錯誤しながら、失敗を恐れず、自ら、一歩前に踏み出す行動が求められる。失敗しても、他者と協力しながら、粘り強く取り組むことが求められる。

(2)「考え抜く力(シンキング)」

~疑問を持ち、考え抜く力~

物事を改善していくためには、常に問題意識を持ち課題を発見することが求められる。その上で、その課題を解決するための方法やプロセスについて十分に納得いくまで考え抜くことが必要である。

(3)「チームで働く力(チームワーク)」

~多様な人とともに、目標に向けて協力する力~

職場や地域社会等では、仕事の専門化や細分化が進展しており、個人として、また組織としての付加価値を創り出すためには、多様な人との協働が求められる。自分の意見を的確に伝え、意見や立場の異なるメンバーも尊重した上で、目標に向けともに協力することが必要である。

確かにこれらの3つの能力は社会で活躍している人には共通して見られる能力であり、日ごろ漠然と「仕事の能力」という言葉を聞いている人もなるほどと思うであろう。

特に終身雇用体系が成果主義をベースにした雇用体系に置き換えられることにより、個人が企業で求められる能力も急速に変わりつつあり、改めて仕事人(Professional Person)としての個人の能力を明らかにすることが求められている。

筆者は、上記のようないわゆる社会人基礎力を立体的な「Professional Personの構図」としてとらえ、相互関係を更に明らかにしてみたい。

1)知について

今の知識情報社会においては、仕事で要求される知識やスキルは10年前、20年前に比べて格段に高度且つ複雑なものである。大学で学んだ内容は原理、原則として有用であっても、社会に出てから最先端の技術や知識を新たに身につける努力をしなければ、遅れをとってしまう。PCとインターネットにより、情報を獲得し発信する当事者は組織単位から個人に急速に変わりつつある。したがって、「知は力なり」という真理は益々その輝きを増している。しかしながら、インターネットで即席の知識が手に入るため、知識習得プロセスが簡略化され、逆に知的体力が著しく退化しつつあることを忘れてはならない。

若者が読書をしなくなっているのである。内容のしっかりした300ページくらいの分厚い本を読むには知的体力が必要である。日ごろ雑誌や新聞を斜めに読み、あるいは必要な知識をネットの検索ツールで辞書を引くようにその部分だけ取り出しているような習慣が身についてしまうと、知的体力は確実に劣化する。そこには、自分にとって難解な本を読んでいくプロセスで行われる「文脈から意味を読み取る努力」や「論理の理解や検証」、あるいは「自分の経験に照らしあわせた疑似体験」、「筆者が言わんとすることを理解した感動や喜び」などの作業はすべて捨象されてしまう。

こういう読書のプロセスを経ていなければ、知識が知恵に転化する可能性も少なくなる。知識は力ではあるが、最終的に知恵に転化しなければ、仕事の中で価値創造につなげることは困難である。価値とは新たに生み出すものであるから、単なる知識の集積自体は価値創造にならない。

コミュニケーションツールを携帯とe-mailだけに集約することのリスクを個人が認識することが必要である。他人とコミュニケーションするためには、まず自分とコミュニケーションしなければならない。その方法は古典的ではあるが読書が一番近道なのである。読書の効用と必要性を教育の場で教えるべきである。筆者も大学で教壇に立って読書の必要性を学生に説いているが、授業の感想レポートを読むと、何故読書をしなければいけないのかという基本的なことを今まで教えられていないことを知って愕然とした。日本の教育が学問の基礎を教えきれていないことは紛れもない事実である。欧米の大学では毎週分厚い本を事前に読んでおかなければ、授業についていけないというメソッドが確立している。日本の大学では教授の話を聞いてノートをとればそれで終わりで、読書を強いられることがない。この点を変えなければ日本の学生は小学校から大学まで、ついに本格的な読書を一度もすることなく教育を終えることになってしまう。

最近企業の研修ではtrainingよりもlearningが重要であると言われている。それは個人が学び続けなければプロとして通用しないので、企業から提供されるtrainingに受身で参加するよりも、個人が自主的に自分の成長のためlearningの機会を求め、企業はその環境を整えることに力を入れ始めたということであろう。learningの環境とコンテンツを整え、個人が自発的にlearningする方向を人材開発の視座にしっかりとすえた企業は強い。

企業で働くprofessionalは単に衣食住の充足を求めているのではなく、仕事そのものに自己の成長と充足を求めている。それに応えることのできる企業が優秀な人材をひきつけ採用力をもつのである。

個人も組織も「知は力なり」という言葉の今の時代における意味を再確認し、知識と知恵を体得しつづけるprofessional personの集合体としての強力なprofessional organizationになることを目指すべきであろう。

―続く―

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