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立ちはだかる壁にどう立ち向かえば良いのか?

[2006.05.01] 小島 美佳 (エム・アイ・アソシエイツ株式会社 ディレクター)

これまでの特集では、「ダイバーシティ」(組織における人材の多様性)が企業に何をもたらし、それがどのような意味を持つのかを中心に取り上げてきた。ダイバーシティ・マネジメントは、優秀な人材の確保やCSRの視点からのみ論じられるべきものでなく、成長を続ける企業にとって不可欠な人材戦略である。
では、企業はどのようにダイバーシティ・マネジメントに取り組めば良いのか?これを実現しようとするとき、どのような困難が待ち受けているのか?さらに、私たちはどうすればこれを克服できるのか?本稿では、このダイバーシティ・マネジメントという新しい戦略への転換を進めていく上で、避けられない課題と留意すべきポイントに触れていきたい。

異なる視点が成長の限界を打ち破る

いま一度、「ダイバーシティ」の意味を確認しておきたい。
企業は、ビジネス成長の限界に直面したとき、どのようにこの課題を克服するだろう。多くの場合、その限界とは、これまでの戦略や仕組みがもはや機能せず、転換期にあることを意味する。新しい戦略転換への基礎となる価値創造が求められるとき、私たちはこれまでの常識をとりはらう必要がある。なぜなら、限界をもたらした既存の考え方から新しい価値が生まれてくるはずがなく、異なる視点が求められるからだ。そして言うまでもなく、異なる視点は異なる「人」によりもたらされる。

ダイバーシティ・マネジメントの取り組みを阻む大きな壁

現在、日本企業におけるダイバーシティ・マネジメントは女性の活用に焦点が当たっている。その内容は、女性が働きやすいよう新たな制度を導入したり、女性管理職を登用するなど、女性の活躍の幅を広げていこうとするものが多い。一方、このような取り組みには困難も多く、企業は他社の成功・失敗事例から、どうにか次の一手を講じるためのエッセンスを学び取ろうと悩んでいるのが現状ではないだろうか。実際には、管理職を希望する女性が少ないなど、女性側の意識の問題も指摘され始めている。ダイバーシティ・マネジメントは、個人の強みや特性を組織の成果へとつなげることが目的だが、それが実現できている状況にはなさそうだ。
では、いったい何がダイバーシティ・マネジメントの取り組みを阻害するのか?その課題を整理すると大きく3点が考えられる。

1. 経営の「本気」度が伝わらない

異なる視点を招き入れることは、組織内に軋轢を生む。新しい視点を持つ人材とそうではない人材との間で不和が生じる事態を避けることは不可能だ。このような時間と労力がかかり、時に痛みをともなう施策に、わざわざ取り組むことがなぜ必要なのか? これを実現することによってわが社がどこへ向かうのか?が社員に伝わらず、結果として行動(変化)が起きないことが考えられる。

2. 管理職(現場)の意識が変わらない

誤解を恐れずに言うと、これまでの日本のビジネスを支えてきたのは男性たちであった。企業には、強い組織力の礎となった男性的な企業風土、行動様式、ルールが存在した。しかし、ダイバーシティ・マネジメントが導入されると、彼らは身体に染み付いている行動様式やルールを変えなければならない。自分とは全く異なる視点を持つ女性たちをはじめ、想像の範疇を超えた行動を取る人材を受け入れなければならないのだ。このようなマイノリティ(女性たち)に対し、既存のルールや行動様式を強要することがあっても決しておかしくはない。

3. 女性の意識が変わらない

企業が女性の活用を始めようする流れに対し、女性たちは何を思うだろうか。確かに、キャリアアップを望む女性は以前よりも確実に増えている。しかし、全ての女性がそうではなく、制度が整備されたとしても、例えば結婚後も自分が企業で「活躍できる」、或いは「したい」というイメージを持てていない女性も多いはずだ。実は女性側も、これまでの行動様式やルールに根ざした考え方を持っている。つまり、男性のようなキャリア意識を持って男性のような働き方をするか、或いはそうでなければキャリアアップは難しいのではないかと考えている。働くということに対しての(ある意味、これまでに刷り込まれてきた)固定観念が彼女たちのチャレンジ精神を阻害するのである。

ダイバーシティ・マネジメントを成功させる4つの視点

このようにダイバーシティ・マネジメントの取り組みは、意識・行動改革と似た要素を多く含んでいる。それゆえ、中長期的には成果を創出することができたとしても、コストと労力をかけてこれに取り組もうとする意欲が社員に湧かない限り、道のりは遠い。しかし、これらの課題は、ダイバーシティ・マネジメントを自社の重要な人材戦略として捉えた上で、以下の4つの視点に留意することで克服できると考える。
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1. 経営の視点

これまでに複数の企業に対し実施したヒアリングにおいて、全ての企業がダイバーシティ・マネジメントには「経営のコミットメント」が不可欠であると言っている。意識・行動改革に経営の深い関与がなければ成功はない。ヒアリングより頂いたコメントの中には、「社員は経営の言葉にいまだ半信半疑である」「一部では経営のメッセージを冷ややかに見ており、彼らの言葉を試している段階」というものもあった。経営は、導入する目的(Why?)、実現された後の成果(So What?)を明確に、かつ根気よく訴え、ダイバーシティ・マネジメントを実現しようとする本気度を示し続けることが重要である。

2. 制度の視点

制度的な対応は、成果が見えやすく施策として打ちやすいことから、多くの企業で着手がなされている。女性が結婚や出産といったライフイベントがあっても仕事を続けることが可能となる制度づくりは、ユニークなものも多く出てきている。このように働き方の多様化にあわせたキャリアパスやワークライフを実現できる制度づくりは重要だ。しかし、企業の制度が果たす役割を考えるともう一つ考慮すべき点がある。それは経営が求める人材像がいかなるものか、メッセージとして伝える役割だ。つまり、ダイバーシティを尊重する行動を実践した上で成果を出せているか、人材を評価しなければならない。経営として社員に「変わる」ことを求めるのであれば、変わったことで評価がされなければ納得は得られない。

3. 風土の視点

最も悩ましい課題として、風土の問題がある。これまでの成功を支えた既存の社員に染み付いたルールが、異質な存在を排除する方向に働くことを避けることはできない。克服のためには、具体的に、これまでのルールを代替する新しい行動様式を定義し伝達することが重要だ。従来のルールは、その浸透度合いが高ければ高いほど「あたりまえ」となっている。この「あたりまえ」がもはや通用しない点を受け入れるところから始めなければならない。これを、経営としてしっかりと意思表示することが重要なのである。さらに、2点目の制度とこれらの行動が連動する仕組みを整備することが求められる。

4. 個人の視点

ダイバーシティ・マネジメントが浸透している組織では、個人が自らの強みをはっきりと認識し、かつゴールを持って自分らしいキャリアを歩むことが前提である。異なる視点や考え方を尊重する組織の中で、自分の視点や生き方を主張できない人材は、埋もれてしまう。一方で、こういった人材へと育成することもダイバーシティ・マネジメントを行う企業の責務である。人のキャリア選択※は(1)ロールモデル、(2)社会的な説得(ここでは企業や周りのサポートであると考える)、(3)自分自身の目標に大きく影響されるという。最近の企業の取り組みは、女性のロールモデルを輩出することに積極的であり、第1点目は考慮されているように見える。ただ、女性たちに企業としてどれだけ「あなたたちが必要である」ということを訴えられているか?そして、自らの目標を持つことをどれだけ奨励しサポートできているか?という残りの2点を確認したいところだ。

個の力を組織の力へ

繰り返しになるが、ダイバーシティ・マネジメントは、異なる視点や考えを持つ個を起点とし、そこから新しい価値を創造する人材戦略である。現在は、最も身近なダイバーシティの担い手である女性の活用が着目されるが、一部の日本企業では、すでに人種や年齢を超えた多様性に着手を始めている。このような一連の取り組みは、企業にとって中長期的な競争力を獲得するための試練であると考えられる。時間とコストを要するだけに、ダイバーシティ・マネジメント戦略は簡単には追随されない、大きな差別化要因となるはずだ。

※ GCDFキャリアカウンセラー トレーニング・プログラム テキストより

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