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働くこととは

[2006.04.28] 中田 研一郎

つい最近ある新聞社より、「働くこととは」および「社会に求められている能力とは」というテーマで取材を受けました。またその働く意義を踏まえたうえで、特にこれから就職をしようとしている大学生へのアドバイスを求められました。
主に大学生を念頭において私の考えるところを述べましたが、すでに企業で働いている方々にも共通の内容が大半であるため、ここにその内容をご紹介します。

まず、「働くこととは」という問いは普段はあまり考えることはありませんが、よくよく考えてみるとなかなか難しい問題です。私は「働くこととは」を次のように定義づけています。すなわち、「働くこととは、経済的に自立し、仕事の責任を負うことにより自らのidentityを確立し、社会の中で自分の居場所を決め社会との関わりの中で価値創造をすること」と定義づけています。

「経済的に自立」という条件は当たり前のようでいて、近年必ずしも容易ではなくなってきています。会社に勤めても契約社員と正社員の間にはかなり処遇に差があり、特にボーナスの金額などが大きく異なるので、いわゆる契約社員のままで結婚し子供を持つことが出来るのかというようなことを考えると、自立することが昔に比べて難しくなったといわざるを得ません。

「恒産なければ恒心なし」といわれるとおり、経済的自立は精神的自立と同様人間の自立を支える車の両輪というべきでしょう。高度な能力を要求される業務とオペレーショナルな業務の仕事の二極分化により所得格差が広がりつつある現在、経済的自立は仕事を選ぶ上で大きな課題です。これはフリーターに象徴される問題ですが、こういう現象を生んだ背景は経済のグローバル化にあります。
経済のグローバル化により発展途上国と先進国の間の技術や知識レベルの差が急速に小さくなりつつあるのに対し、日本国内ではそのグローバル化に対応するため知識集約度が高く高付加価値を生む仕事にしか高給が支払われず、それ以外の業務は相対的に低賃金化していくという仕事の分極化が徐々に進行しつつあります。
したがって仕事を通して自立化していくプロセスを考える上で、経済的自立をするためにはどうすればいいのか、その知識の習得をキャリア構築の早い段階でスタートさせることが、大変重要となってきました。

次に仕事をする上で自分の「identityの確立をすること」がきわめて重要です。「identityの確立」とは自分が拠って立つ基盤を確立し、自分が自己以外の何者にも依存しないということです。自分の存立基盤が他人、親、組織や、地位やお金などである場合には、その依存しているものがなくなれば、その時点で自分のidentityを喪失することになります。

即ち、自己以外にidentityを求めた場合には、その依存しているものが実は意外と脆弱であることを自分でも分かっているので、その依存しているものを失うことを大変恐れる結果となります。したがって困難に直面した時に逃げてしまうのです。仕事をしていく上で、もしそのような恐れが大きくなった場合には、決断をして前へ進むことが出来なくなります。しかし、仕事にリスクはつきものです。利益を追求する企業活動においてはリスクをとるところに利益の源泉があります。今までに誰も試みたことがないような新しいビジネスを成功させれば「創業者利益」を得ることが出来ます。そしてこの"創業者利益"は"The number one takes all"といわれるとおり、ビジネスのIT化に伴って益々大きくなりつつあります。

それではidentityを確立するためのkeyは何なのでしょうか?それは「仕事の困難に直面したときに決してその困難から逃げない」ことです。自分が達成しようと掲げた事柄について自分が全責任を負い、人のせいや組織のせいにしないことです。結果として自分が挑戦したことが成功するとは限りません。むしろ、仕事の実力がない若い頃は失敗する確率のほうが高いのです。

しかし、自分が困難から逃げないですべてを自分の責任として挑戦した場合には、結果として成功しなくても、人の信頼を勝ち得て、自分の周りに良い人、自分を応援する人が集まってくるものです。仮に良い結果が出なくても、失敗が次の成功の原因を作るのです。企業においては自分ひとりで出来る仕事はあまりありません。多くの人の協力とサポートがなければ決して一人前の仕事はできません。

Identityを確立した人は、困難に挑戦する過程で結果として自分に協力してくれる人材群を引き付け、いわゆる本当の「人脈」を作り上げることが出来るのです。飲み屋で仲良くした表面的な「人脈」はいざというとき何の役にも立ちませんが、自分が血を吐く覚悟で挑戦した姿を知った上で近づいてくる人は信頼できる友人となる確率が高いし、人間観が素直なので良い人であることが多いのです。再度新たなプロジェクトに挑んだときいろんな能力やタレントを持った人が応援してくれれば、成功する確率は格段に高くなります。

「失敗は成功の母」という言葉は全員に当てはまるわけではなく、identityの確立を目指して「自己変革」に挑戦した人にのみ与えられる真実なのです。「失敗がさらに新たな失敗を生む」ことも人生の冷厳な現実であることを忘れるわけにはいきません。

自分が困難に挑戦し孤立無援であるように見えても、やはり人は人のことをよく見ているもので、「あんなに大変な状況で頑張っているのだから、なんとか助けてあげよう」という人が出てくるものです。ただし、それには条件があって、その挑戦者が自己のIdentityを確立するべく絶えざる成長をしていることです。肉体は自然に成長しますが、人の精神と内面は自然に成長するわけではありません。自己変革には強い自らの意思が必要なのです。むしろ放置すれば精神は堕落する方向に行きます。まさに「小人閑居して不善をなす」です。

逆に要領よく困難を逃げて立ち回り、仕事をしたふりをする人は、次に同じようなことが起こるとまた逃げます。自己変革のチャンスを逃し、人の信頼も得られない―責任逃れが失敗の原因を固定化させ、「負け癖」をつけてしまうのです。そうなれば、その人は愚痴の人生となってしまいます。

勇気を持って自分が全責任を負うことをとるか、あるいは勇気なく困難から逃げるか―どちらの行動パターンをとるかで10年経つと大きな差となってしまいます。10年経ってから「自分だってやればできた」と言っても、もう遅いのです。仕事の実力は仕事を通してしかつかないのであって、やらなければできないのです。「逃げ癖」のついた人は自己変革が著しく困難となり、いずれ周りから変化を迫られたときには、変わりたくても変われなくなってしまっているのです。

勝ち組、負け組という言葉が流行っていますが、本当の勝負は仕事に対するスタンスを決める精神にあり、その精神が本当の勝ち負けを決するのです。

――――――続く――――――

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