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ダイバーシティ・マネジメントが企業の競争力を高める(2回連載:第2回)

[2006.03.01] 高橋 俊介 (慶大学大学院政策・メディア研究科教授應義塾)

近年、注目されつつある「ダイバーシティ・マネジメント」について、慶應義塾大学教授の高橋俊介先生にお話を伺いました。

前回はダイバーシティ・マネジメントの時代的背景、及びそれが企業にもたらすメリットについて述べた。今回はダイバーシティ・マネジメントを成功させるためのポイントについて述べる。まず心に留めておきたいことは、多様性を受け入れることは容易ではなく、コストと時間、それから多大な労力がかかるということだ。例えば、業界用語が通じないだけでも苦労しストレスを溜めることがあるのに、そもそもの使用言語が異なるところでのコミュニケーションには想像できないほどの苦労がつきものだ。ダイバーシティを浸透させるためにはいくつかのポイントがある。以下にそれを説明する。


共通性の確保


通性が確保されないまま多様化を進めると収拾がつかなくなってしまう。ここでの共通性は、会社のビジョンや行動指針、基本となる価値観などの企業で共通して持つものを指す。これらは、意図的に作成し明文化することが重要だ。ダイバーシティ・マネジメントを実現している代表的企業は、これらの共通性の確保にしっかりとコストをかけている。画一的な人材マネジメントでは、無意識に共有している価値観、行動様式があるため、こういったものをわざわざ議論し明文化する必要がない。しかし、価値観の異なる多様な人材をマネジメントしようとする時には、こういったものは意図的に創造しないと生まれてこないのである。
スイスの企業であり、世界最大の食品会社であるネスレは、実は売上の99%をスイス以外の国で稼いでいる。食品は地域に根ざしたものであるため、ネスレではダイバーシティの取組みは必要不可欠なのだ。
ネスレはスイスの会社であるのだが、エグゼクティブ・コミッティにスイス人は実を言うと一人もいない。それでもネスレのカルチャーは?と聞いてみると、 "スイスカルチャー"だという答えが返ってくる。この"スイスカルチャー"を共通のものとして徹底するために、数千人規模のマネジメント層を対象にした研修を、莫大な投資をしてスイスに集めて実施している。


期待役割と期待成果の共有


働き方、働く人々が多様化するため、期待役割と期待成果を上司と部下の間でより明確にし、共有する必要がある。成果に到達するまでに至るプロセスを管理することが難しいからだ。例えば子育てをしながら働く人の場合は、上司と常にコミュニケーションをとる必要がある管理方法だと、時間的に拘束され働きにくさを感じさせてしまう。また、異なる価値観を持つ人材は、上司が経験をしてきた仕事のやり方では成果が出せないかもしれない。従って、そのためにできるだけ期待役割と成果を共有することが求められるのである。ただ、そのためには社員一人一人が自律し、課せられた役割に対して結果を出すという自己責任を持つことが前提となる。

多様な成長を認める

組織の中には出世を目指すものもいれば、そうでないものもいる。専門分野を極めたい人材もいれば、人間関係を充実させた環境で働きたい人材もいる。様々なキャリア・モチベーションを持つ人材が同一組織内で働くことになるので、今までの画一的な等級制度やキャリアパスではなく、それぞれのキャリア・モチベーションにあった制度を考える必要がある。

コミュニケーションスタイルの改革

人種や年齢に関係なくコミュニケーションを図るには、立場などは関係なく、風通し良く議論できる環境が必要となる。異なる価値観の中で仕事をしなければならない時に、議論に必要となるのは客観的でロジカルなコミュニケーションだ。日本人は客観的、冷静に議論することがあまり得意ではない。事実ではなく印象による意見を述べたり(認知のゆがみ)、みんなの意見と言いながら2,3人の意見であったり(過度の一般化)することがある。また、反対意見を人格否定と捉えたり、人の話を聞かない人がいたりする。多様な人々で構成される組織を生産的に運営していくためには、論理的な議論を行うという基盤を整備する必要がある。

働き方の多様化

女性の活用や、少子高齢化社会などの環境を考えると、育児や介護などによる時短勤務や自宅勤務などのフレキシブルな働き方を認めていく必要が出てくる。異なる価値は異なるライフバランスによってもたらせるものであり、これを尊重することが求められるのではないか。

以上ダイバーシティを前提にしたマネジメントを実現するために注意すべきことについて述べてきた。繰り返しになるが、ダイバーシティの取組みは企業のカルチャー変革と同じで浸透させるには時間と労力がかかり、ノウハウの蓄積も必要であり、すぐに成果が出てくるようなものではない。だからこそ、長期的な差別化要因となり企業価値の向上につながるものではないかと考える。

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