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ダイバーシティ・マネジメントが企業の競争力を高める(2回連載:第1回)

[2006.02.01] 高橋 俊介 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)

近年、注目されつつある「ダイバーシティ・マネジメント」について、慶應義塾大学教授の高橋俊介先生にお話を伺いました。

多様な価値観を企業の活動に取り込むことによって成果に結びつけようと、世界中の企業がダイバーシティ・マネジメントに着手している。日本ではダイバーシティというと「女性の活用」というイメージを思い浮かべる人が多いかもしれないが、女性活用はダイバーシティの初歩編と捉えるべきであり、実際には女性のみならず、人種や年齢(高齢者の活用)、性的嗜好、バックグラウンド(出身業界、育ってきた環境、生き方そのもの)をも包含した取組みを指している。ここではダイバーシティ・マネジメントが求められてきた時代的背景、ダイバーシティ・マネジメントが企業にもたらすもの、そしてダイバーシティ・マネジメントを成功させる上で不可欠となるポイントについて述べていきたいと思う。


ダイバーシティ・マネジメントが求められてきた時代背景

1960~70年代
ダイバーシティを前提にしたマネジメントが注目され始めたのは、1964年に米国で制定された新公民権法(年齢、性別、人種などによる一切の差別を法律で明確に禁止)によると言われている。1970年代にはGMやAT&Tなどの大企業が、黒人女性などのマイノリティによって、差別を受けたことを理由に訴えられ敗訴した。この時の賠償金は数億ドルに上ったと言われており、企業にとって画一的な人材のみを対象とするマネジメントは大きなリスクとなることを意味していた。その後、ダイバーシティ・マネジメントは企業の重要なリスクマネジメントのテーマとして扱われるようになったのである。

1980年代
ダイバーシティ・マネジメントはその後、積極的なCSRの一環として捉える流れが起こった。CSRは経営において不可欠な取り組みとして捉えられ、不祥事などの企業事件が起こってしまった場合でも、CSR活動によってイメージが確立している企業では業績のリカバリーが早いことがデータで証明されている。
例えば1980年代にシカゴで起きたタイレノール(ジョンソン&ジョンソンの頭痛薬)の服用による死亡事故のケースが有名だ。当時のジョンソン&ジョンソンでは、これが発覚するや否や、死亡要因が解明されることを待たずに、すぐに全米中のタイレノールの回収を行ったのである。これはCSR的色彩が強く現れているクレド経営(我が信条)に則った行動であった。死亡事故は毒物混入によるものであったが、この事件により消費者の支持を失うことはなかった。なぜならば半年後にタイレノールを再リリースしたところ、以前よりもシェアを増やし、増益増収を達成したからである。ジョンソン&ジョンソンは、世界大恐慌依頼、毎年増収増益を達成している驚くべき企業であるが、この業績を達成している背景には、クレド経営があった。(企業理念とダイバーシティ・マネジメントとの関係について、後ほど述べさせていただく)

1990年代
90年代に入ると、ダイバーシティ・マネジメントの取組みは、マーケット拡大につながると言われはじめた。その典型的な例が、タイガーウッズ効果である。タイ人とアフリカンアメリカンのハーフであるタイガーウッズがヒーローとなり、ゴルフとは無縁だと思っていた白人以外の層が、ゴルフマーケットに多く流れ込んできた。これによりゴルフ場はもちろん、ゴルフ関連の商品のマーケットが大きく拡大した。

ダイバーシティ・マネジメントが企業にもたらすもの

近年の研究では、ダイバーシティ・マネジメントは企業にとって「人材マーケット拡大」、「意思決定リスク低減」、「変化対応能力の向上」などの効果があると言われている。
以下に、この3点について具体的に述べる。

人材マーケットの拡大

ますます人材の獲得競争が厳しい時代となり、例えば学生の就職状況を見てみても、企業内定が一定の学生に集中するようになってきている。このような時代において、金太郎飴的、同質的な人材ばかりを採用しようとしていては、優秀な人材確保が難しい。
従来の日本人男性だけで、優秀かつモチベーションの高い人材を確保することはまず無理な状況になってきているのである。このような背景より、優秀でモチベーションの高い人材を国籍の異なる人材や女性に見出すことが戦略的に有効になってきている。

意思決定リスクの低減

意思決定の際に多様な視点からなる意見を取り入れることにより、意思決定に失敗するリスクを低減できる。グローバルな戦略に打って出る企業が増加している中、例えば中国人の反日感情を逆撫でするようなCMは、一定の権限を持つ役職に中国人を登用していれば事前に防ぐことが出来たはずである。「わが社の常識は世間の非常識である」場合もある。これに気づかせてくれるのは、異なる視点をもつ人材だ。純度の高い人材から構成される組織よりも、多様な人材がいる組織の方がリスクを低減できるのである。

変化対応能力の向上

これまでの日本企業は、まだ社会の色に染まっていない新卒を大量に採用し、組織に同化することを求めた。画一的な人材より構成される組織は、結束力は固いが視野が狭く、外部との軋轢が強まってしまう傾向があると言われている。つまり、外部の変化に対して鈍感であり、適応力がなくなってしまうのである。ある社会学者は、フランス移民の暴動は、移民が他の社会に溶け込んでおらず同質的な組織となってしまっているために起こったと分析している。変化が激しい、先の読めない時代に迅速に対応するためには、組織内部に多様な人がいることが重要となる。

次回はダイバーシティを実際に進めていく際のポイントについて述べる。

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