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人材の鎖国、方法論の鎖国

[2006.01.27] 武谷 啓 (人事サービス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長)

企業の人事情報は長らく物理的に隔離することによって統制されてきました。具体的には、人事情報は人事部門のキャビネに置かれ、どんな情報を誰に開示するかは人事部門で判断して決め、場合によっては人事システムのサーバーも情報システム部門とは分離して管理され、実際の人事業務に携わる人材は異動もなく塩漬けにされるという具合です。人事情報を必要とする人が限られた中では、この方法はセキュリティを確保してく上で有効に機能していました。結果的に人事業務の従事者は社内の他の業務に接することも無く、独自の方法論が発展します。

よくよく考えてみれば、人事業務というのは、異なる企業が「かなり同じような業務」を「かなり同じようなやり方」で、場合によっては数十年もの間、全く外界と接することなく、各個社で独自の発展を遂げてきた「鎖国」のような状態です。これに加えて、社内でもローテーションを行わず人を固定化してきたことが、他社とも違う、同じ会社の他の部署とも違う、かなり独特な方法論を持つ人事業務部門=「鎖国の中の鎖国」状態を生んでいます。

「岡目八目」といいますが、その会社の人事独特の風習を外からチェックし、できるだけ違う部門や業務形態のグループ会社、更には他社を包含して、人事の普遍的業務方法を  抽出していくこと=標準化が必要です。
昨今の流行で言えば、人事にも鎖国からの開放を目指した「市場化テスト」が必要といえます。結局、シェアード化というのは、人事の世界にビジネスルールを持ち込むということだとも言えます。

外販できないグループ内シェアード会社が多くなっているように思います。大きな目的の下でスタートしながら、実際のところは「従業員サービスレベルの維持」や、更には「今のやり方からの変更に対する抵抗」から標準化が進まず、親会社専用のプロセス構築に邁進することになります。結果として、シェアード会社のサービスはグループ外企業には売れないものとなり、シェアードの中でも標準化は進まず、単なる「親会社の事務代行センター」になっている例が多くみられます。標準化を進められないシェアードサービスはその存在意義を急速に失います。ここでは、結局、鎖国状態は何も変わっていないのです。

これを私は皮肉をこめて「飼い殺しシェアード」と名づけています。言い換えると、グループ内に留め置くことを宿命とされているシェアード会社です。こういうシェアード会社になってしまったのは、親会社の指示・命令によるところが大きいのですが、この手の会社に「グループ内シェアードが完成したら、外販しろ」と言うのは無理な注文ですし、言われる方も気の毒に思います。

よく、「従業員へのサービスレベルは落としてならない」という企業の人事担当者の話を聞きます。しかしながら、そのサービスレベルが適正な水準なのかどうかということは検討されていません。当然のことながら、また、従業員サービスにはコストがかかりますし、サービスレベルを落とすと従業員から文句が出ます。

従業員も勘違いしているように思います。シェアードのサービスレベルを決定する、つまり従業員サービスにどの程度コストをかけるかを決定するのは雇用主であり、従業員ではありません。従業員はある意味サービスのフリーライダーです。コストの負担者と受益者が違うので、受益者は文句を言いやすい構造になっています。更に、そのサービスを維持するのに雇用主がどの程度のコストを払っているかを従業員は知らされていませんし、そのコストが適正なコストかどうかの検討はほとんどなされていません。「うちは従業員を大切にします」という企業も、言い換えると「うちは従業員へのサービスレベルにこれだけのコストをかけています」ということです。
 
人事の世界は比較的コスト対効果の測定が曖昧です。制度の改定や能力開発など効果が 長期に亘ることが多いため、測定のためのコストが非常に高くなることや、更には効果が数値化しにくいものが多いのも事実です。このためかどうか、比較的簡単にコスト対効果が把握できる人事業務(人事事務、人事システム)についても効果測定を放棄している傾向が見受けられます。まずできるコスト比較からやってみることが、鎖国を開放し、新しい知恵と行動を生む端緒になります。

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