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思考力を鍛える技術

[2006.01.30] 上坂 伸一 (株式会社ファーストプレス 代表取締役社長)

昨年末、東筑高校野球部の大先輩である、仰木彬前オリックス監督の突然の訃報に接しました。氏は昭和28年に、九州ナンバーワンの投手として母校を初の甲子園出場に導き、西鉄に入ってからは2塁手に転向して活躍しました。そして指導者の才を三原監督に見出され、早くから英才教育を受けたと伝えられていますが、実際には三原監督は何も教えてくれず、自分がすることをすべて横で見させて、盗ませていたそうです。自分の頭で考えて盗めない者、ついて来られない者は切り捨てる、という職人気質の世界だったのでしょう。

仰木さんと高校時代にバッテリーを組んでいたのが、昭和53年に我々を甲子園に連れて行った喰田(しょくた)監督です(甲子園での初勝利は3度目に出場した我々のチームでした。しかも2勝! わたしは背番号10番でしたから勝利に貢献していませんが、背の順で並びましたので、ホームベースを踏みながら校歌を2度歌いました)。

我々が卒業した後も、進学校で公立の東筑を何度となく甲子園に導いた喰田監督の采配は、データを生かした緻密さと大胆さを併せ持つ「仰木マジック」に通じるところがありました。たとえば、「頭を指すだけのサイン」というのがあります。塁上に走者がいるときに監督が頭を指差したら、打者と走者は監督が出したいサインを考えて実行するのです。打者と走者で考えが違ってはいけませんから、互いにサインを出し合って確認します。こんな調子ですから、相手チームにサインを盗まれることなど、起こりえませんでした。九州では有名な監督で、「喰田マジック」と呼ばれていました。

この「頭を指すだけのサイン」を理解する術は、気づかないうちに、1年生のときから教え込まれていました。強豪チームですから、新入生はなかなかベンチに入ることができません。みんなネット裏で試合を見ます。そのときに何をやっていたかというと、相手チームのサインを盗むのです。この場面で相手の監督はどんな手を打つだろうか? このキャッチャーの配球は? ピッチャーの癖は? などなど。監督は1年生がやがてレギュラーになって試合に出たときに、あらゆる場面に対応できるよう、試合に出られないときから準備をさせていたのです。

仰木マジックと喰田マジックから学んだことは、「他者の良いところを盗み(学び)、自ら考え、自分のスタイルを生み出す」ことが重要だということでした。

わたしはダイヤモンド社時代に、「真似が上手いね」と言われたことがあります。他者が編集した本のアラを探しては「ヘタだねぇ」と言う編集者が多い中で、「この本のここは使える」という、良いところに注目する見方をしてきたつもりです。そして自分のスタイルをつくりだしてきました。

基本は大切ですが、それだけでは読者に「オドロキ」を伝えられません。自ら汗を流して考えた「+創造性」があってこその「マジック」だと思っています。

喰田監督に関する記事を地元紙の「西日本新聞」で見つけました。「ホームスチール、トリックプレー...。技術で劣っても、相手のサインや投手の癖を盗むことが上手な選手を評価し、ベンチ入りさせた。自分で考え、工夫することが教育方針。東筑高の現監督で、78年夏に甲子園出場の青野浩彦は『選手自身も工夫していました』と振り返る」

喰田さんの後を継いだのが、我々のチームの青野浩彦キャプテンです。監督就任後、進学校ゆえに選手集めがままならないなかで2度の甲子園出場を果たし、しかも勝利の校歌を歌いました。彼もまた、選手の思考力を鍛え、考える野球を継承しています。

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