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配置・異動のスキル向上に与える影響と限界

[2005.10.28] 武谷 啓 (人事サービス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長)

人材育成に対する投資は、その効果やリターンがわかりづらいものです。効果を明確に示せないことから、リストラ時にはもっとも先に手をつけられ、削られやすい分野の一つになっています。実際、バブル崩壊後の「失われた10年」の間、人材育成投資が縮小の一途をたどったという統計的な数字はいくつかの調査結果でも見ることができます。

企業において、現在、人材育成投資、能力開発投資として考えている範囲は、狭い範囲で言えば研修と若干の出向、留学等を指すのだと思いますが、旧来的な研修は、ご承知のとおりかなりテクニカルスキルに寄った内容になっています。マネジメントやリーダーシップのコンセプチュアルスキル、ヒューマンスキル(以下、「その他のスキル」と言います)についての研修もあるにはありますが、まだレベルが低い(教える側も、受ける側も)のが現実だと感じます(コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキルの定義として、「テストで計ることができない能力」というのを読んだことがあります。「テストで計ることができない」ため、よけいに効果があいまいに見えるスキルではあります)。

昨今、選抜的な「次世代リーダー研修」「コア人材研修」等が企業ではやっていますが、これらの研修はテクニカルスキルの向上に比して、「その他のスキル」の向上スピードと質が大きく劣っていることを埋め合わせるために進められてきたということでしょう。従来は、異動・配置により「その他のスキル」向上を図っていたのが日本の企業です。いくつかの部署をまわって結果が出るのを待ってから、ハイパフォーマーを登用してきました(このため、昇進も遅くなります)。このやり方だと、「その他のスキル」の向上に時間がかかることから、もっとショートカットできるよう上述のような選抜研修がはやっているのだと思います。

これらの動きに鑑みると、日本の企業で今、求められていることは、「その他のスキル」の強化(もしくは、テクニカルスキルと「その他のスキル」のバランスがとれたスキル向上)だとも言えると感じています。これら「その他のスキル」はそもそも会社が育成するのか、個人が家庭のしつけや学校教育の集団生活の中で学んでいくのかという問題はありますが、少なくとも企業から見て、採用した(採用してしまった)人材の育成は必要だということになります。

米国では日本に比して企業内異動が頻繁ではない(企業間異動の労働市場整備と関係しますが)ので、「その他のスキル」向上における配置・異動の役割は相対的に小さいのだろうと感じています。一方、日本においては「その他のスキル」向上における配置・異動の役割は非常に大きいものがあります。会社が配置の自由度を持つ一方、解雇権に大幅な制限があるというバランスの上で成り立っている日本の法体系から考えても、会社の配置に対する責任と役割は大きなものであることがわかります。
しかしながら現状、配置・異動に関して、それによる「その他のスキル修得」に関する効果や方法についての科学的アプローチはほとんどなされていません(何度か米国の調査等を見てみましたが、企業内異動が少ないせいか、あまり分析的なことはなされていないようです。また、日本でもこういったアプローチでの調査は未だ見かけません)。ここで言う、「配置・異動の科学的アプローチ」とは以下のような視点をイメージしています。
(1) 「3年たったのでそろそろ異動しようか」ということではなく、何をきっかけに異動をすることによって、効果を最大化できるのか?
(2) この異動によって、本人には何をいつまでに期待しているか?
(3) 異動に伴うコストとリターンをどう考えるか?
(4) ポストに求められるスキルと本人の資質をどうマッチングさせるのが良いのか?一対一ではなく、マスで考えるとどうするのが良いのか?(現在、日本にあるマッチング機能は多分にテクニカルスキルによっているように思います)
(5) どの程度の期間、同じ職務につくとモチベーションが落ちて来るのか?
(6) モチベーションが落ちてくるのは、期間の問題なのか、それとも「その他のスキル」の向上度合い等、他の事情によるのか?
(7) どういう順番でどういう経験をさせる(「その他のスキル」は「習熟能力」と呼ばれるように、経験を通じて得られる能力と言われています)のが、もっともスキルの伸長スピードを速めるのか?

「異動をするほうが良い」とか「異動はしないほうが良い」とか言うことを経験則的に語るだけでなく、一つのフレームワークを提示できれば非常に効果があるのではないかと思います。例えば、上記(1)(2)だけでも個々の異動の際に個々人ごとに書き留め、企業内で蓄積すること、数年後にこの異動が良かったのかどうかをフィードバックするシステムを検討してみてはどうでしょうか。コンピテンシーと職務要件とのマッチングなどよりも、実効的な仮説と施策が出てくるように思います。

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