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子供はいつ大人になる?

[2005.09.17] 中田 研一郎

9月初旬に第4回情報科学技術フォーラムが中央大学で行われ、私もパネリストの一人として出席しました。パネルディスカッションのタイトルは「暗黒時代の大学に夜明けは来るか」という一見非常に挑戦的なものでしたが、実際の議論は大学改革に関するポジティブな提言も出て、問題の本質を考える上で大変有意義でした。

議論のひとつとして、私自身が提起したポイントの一つは、ソニーの人事で日本と中国における新卒学生の採用責任者をしてきた観点から、最近の日本の大学生は中国の大学生に比して、一般的に精神が成熟するのが遅くなっているので「自己の確立」を促す制度が必要であること ? 具体的にはソニーは「フレックスキャリア・スタート」という新しい採用の試みを2005年度より始めたことを紹介しました。これは、4月1日入社にするのか、あるいは、それ以降2年間のいずれの時期に入社(キャリア・スタート)するのかを、エントリーする時点で選択してもらうことにする制度です。

就職の内定を取れた翌年の4月1日に入社することが、日本では自然の摂理のように考えられています。しかし、本当にそうでしょうか?なぜ4 月1日かといえば、3月末が大学の卒業だからその翌月に企業に入社する以外にないと皆が思い込んでいます。しかし、自分にまだ本当にチャレンジしたいことが残っていて、あと半年、あるいは1年の余裕があれば、是非それをやり終えてから入社したい ? そんな思いを抱いている人は必ずいるに違いありません。企業で働いて実績を出すためには、他人や環境への依存から脱却して精神的に自立して仕事の責任を自らが負って結果を出すことが不可欠です。ビジネス環境がそのように厳しい自己の確立を要求するのだとしたら、不完全燃焼のまま中途半端に入社をしてもらうより、きっちりと自分で納得できるチャレンジをし終えてから入社してもらったほうが、後々の本人の活躍を遥かに高めることになります。半年や1年入社するのが遅れても、長い人生の大勢に全く影響がありません。それよりも、自分の原点を明確に構築して、いかなる困難があろうと、それに立ち向かっていける強い自己を確立して入社したほうが、はるかに本人あるいは企業のためになります。

昔の日本人は15歳前後に元服し、その時点で成人としての扱いを受けるルールでした。いずれの国においても、一昔前は10数歳で大人の仲間入りをさせられたのです。しかし、今の時代は寿命が長くなったこと、社会が複雑になったこと等のさまざまな要因で、一人前になるまでの教育期間が昔と比べて遥かに長くなりました。大人になるまで昔の倍近い時間がかかっているのです。

概ねこのような意見を述べたところ、パネリストの東大の船曳教授より「日本と中国では社会の成熟度がかなり異なるのだから、日本と中国の学生の精神年齢の成熟度を単純に比較すべきではない。日本のような成熟かつ長寿社会では青年が大人になるのに昔より時間がかかるようになったのは自然の成り行きで、大学の制度もそれに合わせて学部は4年制から6年制に変更するようなことも考えるべきだ」という趣旨の指摘がありました。
日本の若者の精神が成熟するのに昔より時間がかかるようになったという点で、期せずして意見の一致をみたわけです。ただし、私は採用面談の席における現場体験からそのような変化を感じたのですが、船曳教授は単なる現象面からではなく、社会の成熟度と人間の成熟度の関係という普遍的な観点から鋭い分析をされました。

「今の時代は子供が大人になるのに昔より時間かかかる」という認識は、家庭における躾のみならず、学校においても会社においても、議論の前提条件として明確にしておく必要があるのではないでしょうか。こういう基本認識をしっかりしておかないと世代間でコミュニケーションもスムーズにいかないし、時代の変化に対応して社会の様々な制度を革新しくしていくことも難しいといえます。

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