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MIAが考えていること(9):傾聴からアブダクションへ(その2)

[2010.06.02] 松丘 啓司  プロフィール

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 研修などの場において、傾聴とは、受容的、共感的に聴くことと教えられます。「相手の心を受け止める」とか、「相手に寄り添う」とかいった言い方で、そのニュアンスが伝えられることもあります。相手の意味を理解するうえで、この姿勢は不可欠なことです。しかしながら、このような、どちらかというと情緒的な表現を、素直に受け入れられないビジネスパーソンも少なくないのではないかと推測します。


 相手を受容しなければ意味はわからない

 「ビジネスは闘いだ」と考えているような猛烈なビジネスパーソンにとっては、「相手に寄り添う」などと言われると、子どもじみた甘い考えのように感じられることでしょう。けれども、相手を受容しない限り、相手の意味が理解できないのは確かです。

 もしも、「コミュニケーションは議論だ」という考えに縛られていたとするなら、相手を容易に受容することはできないでしょう。なぜなら、議論とは闘いだからです。「議論を闘わせる」とか「議論に勝つ」といった表現が示しているように、議論にはもともと、どちらの主張が勝るかを決めるという概念が含まれます。そのため、自分がいわば議論モードに入っていたとしたら、相手を受容することは自分の敗北に繋がってしまいます。

 前回、残業の例で示した問題解決重視の意識も、相手の意味の理解を妨げてしまいます。相手の言葉を聞いたら、すぐさま解を探しに行ってしまうような思考スタイルでは、相手の意味の深層にはたどり着けません。もちろん、ビジネスにおいては、問題解決も議論も不可欠であることは言うまでもありませんが、それだけでは、創造性が欠如してしまいます。そのため、会議や会話の目的によって、コミュニケーションのスタイルは使い分けられなければなりません。

 他者とのコミュニケーションの中から、自分にはない観点を見つけ出し、考えるべきテーマや論点そのものを模索していくことが、創造的で深い思考に繋がることは、前回にも書いたとおりです。それを可能にするためには、相手の意味が理解できなければなりません。「若い人たちは、そんな風に考えていたのか」とか、「主婦層の消費者は、実はそこを気にしていたのか」とかいった意味の気づきは、これまでにはない思考を生み出します。そのような相手の意味を理解するためには、「聴く」ことが不可欠です。


 「相手のため」ではなく「自分のため」に必要

 もともと、傾聴が重視されるカウンセリングやコーチングの領域では、あくまでも主役は相手方です。カウンセリングやコーチングは、相手の考えや気持ちを受容的、共感的に聴くことによって、相手が自分の考えや気持ちを整理したり、自分なりに納得したりすることを助けることに目的があります。つまり、それは第一義的には「相手のため」です。

 ビジネスにおける部下育成の観点(=「部下のため」)から、マネジャーに対して傾聴スキルが教えられることも少なくありません。しかし、部下育成のために、マネジャーが自分のコミュニケーションのスタイルを変えることは、なかなかすぐにはできないことも残念ながら現実でしょう。

 部下育成が重要であることは論を待ちませんが、それ以上に、深く聴くことは「自分のため」と認識されなければなりません。つまり、自分自身の考えを深く、かつ創造的にしたいのなら、深く聴かなければならないのです。さもなければ、浅く、ありきたりな考えしかできなくなってしまうことが理解される必要があると思います。


 傾聴はアブダクションの前提

 相手の意味を理解するためには、相手を受容することが不可欠です。しかし、ただ、相槌を打ったり、オウム返しをしたりしながら聴いていればよい訳ではありません。聴きながら、同時に相手の意味を理解するための推論(=アブダクション)を働かさなければなりません。つまり、傾聴は相手の意味を理解するための前提となりますが、そこにとどまらず、さらに先を行く必要があります。

 チャールズ・パースによると、アブダクションは次のように定式化されます。
「驚くべき事実Cが観察される。しかし、もしAが正しいとするなら、Cは当然のことであろう。したがって、Aは正しいと思われる道理がある」

 相手とのコミュニケーションの中で浮かび上がる「驚くべき事実」とは、相手と自分の「違い」です。それは、「意外な発見」であることもあれば、「どこか違う」といった漠然とした違和感であることもあるでしょう。いずれにせよ、そのような「違い」を糸口に聴き手は推論のプロセスを働かせます。

 対話におけるアブダクションとは、もし、相手がこのように考えていたとするなら、その違いは当然だ、という相手の考えの意味に気づくことです。その気づきは、「ああ、そういう意味だったのか」という感覚です。この感覚は、誰もが経験したことがあるものと思いますが、この気づきは、相手の言葉から演繹的、あるいは帰納的に得られるものではありません。ふと、突然、AとCが繋がるものです。

 では、その推論のために、どのようなコミュニケーションや思考が必要となるかという点については、次回に書きたいと思います。

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