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「一撃必殺」の改革プランなどない

[2009.11.18] 谷藤 友彦

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 論理的思考に頼れば「リッチな改革プラン」ができるが...

 昨年末に比べれば景気は底を打ったと言われるが、多くの企業にとってはまだそれを実感できる段階にはなく、依然として苦しい事業環境にある。収益を確保し、新たなビジネスチャンスを発見するための改革に着手する企業やマネジャーも少なくないはずだ。

 改革プランの立案にあたっては、自部門の現状を把握した上で目指すべき方向性を設定し、両者のギャップを埋めるための施策を導き出すというステップを踏む。もし本当に緻密なロジックを組んで計画を立てるのであれば、自部門の現状を知るだけでも、製品/顧客構成、製品/顧客別に見た売上高や利益、競合優位性、顧客満足度、ポジショニング、製品品質、販売チャネルの構成、製品・開発プロセス、製造・物流プロセス、意思決定プロセス、組織構造、人員構成、社員の生産性、社員のスキル、情報システムの構成などをつぶさに調査しなければならない。

 また、自社を取り巻く外部環境の変化からビジネスポテンシャルを抽出し、自社のあるべき姿を定義しようと思ったら、市場や競合、技術やイノベーション、経済や政治の動向などを読み取り、それが自社に及ぼす影響を推測するといった作業が必要になる。こうして明らかになった現状と目指すべき姿の乖離を丁寧に整理し、ギャップを解消するための施策を企画する。施策は戦略や組織、業務、IT、人材など多岐に渡る。できあがった改革プランは何ともリッチでエレガントに見える。


 リッチな改革プランの3つの弱点

 では、このいかにも「賢そうな」改革プランを立てることが本当に重要なのだろうか?一生懸命情報をかき集めて、精緻なロジックの上に組み立てたリッチな改革プランには3つの弱点がある。第一に、立案に時間がかかりすぎる。情報を集め出すときりがない。やろうと思えば底なし沼の作業になる。刻一刻と状況は変化していくのに、下手をすると計画ばかりに時間を費やすはめになる。

 第二に、改革プランが難しくなりすぎて、プランを実行するメンバーの理解や賛同が得られなくなる。私自身はこの点が最もクリティカルだと思っている。プランナーとメンバーの頭の中身は同じとは限らない。どんなにすごいプランでも、実行する人がそれに納得しなければ改革は絶対に実現しない。かつてコンサルティングの現場で、膨大な資料に基づいていくつもの施策を組み合わせた豪華な改革プランをクライアントに提示したプロジェクトを何度か見たことがあるが、クライアントがまずその内容を咀嚼するのが大変だし、クライアントも「こんなに施策をやる必要があるのか...」と感じてしまって逆に改革の意志が萎えるのではないか?と内心思ったものだ。

 第三に、ロジックの完成度が高いがゆえに、プランの修正が難しい。プランの各要素が密接に関連しており、一部を修正しようとすると、別の箇所にも影響が出る。プランニングの段階では情報が不完全なために、現状や将来の見通しに関していろんな仮説を立てる。だが、この仮説というのは時に厄介で、解らないことを正直にブランクにしておけばいいものを、無理やりにでもロジカルにしてしまう力を持っている。すると、仮説に仮説を重ねた仮説だらけのプランができあがることがある。この場合、仮説と違う事実がちょっとでも発見されると、プランのあちこちに綻びが出る。強すぎるロジックは、逆説的だが実はもろいのだ。


 新任マネジャーは3度改革に取り組む

 海外の研究だが、改革に取り組む新任マネジャーの行動を観察した興味深い調査がある。その調査によると、改革に成功した新任マネジャーには共通の行動パターンが見られたという。それは、「一時的だが集中的な活動の『波』を3回起こす」というものである。つまり、3回に分けて施策を仕掛けているのだ。調査では、こうした行動パターンは「新任マネジャーが未知の状況を理解しようと学習し行動した結果」であると分析している。(※)

 1回目の施策は是正措置に近い。新任マネジャーのこれまでの経験や新しい状況について学習したことに基づき、まずは解決できる問題から着手する。その後、しばらくは施策の結果を見守り、日常業務を進める中で、事業環境や業務内容、組織の力学、部下の適性などに対する理解を深めていく。この時期に得られた重要な情報から、真の課題を発見し、新たな改革のコンセプトを固めていく。

 2回目の施策は戦略面、組織面に関わる大規模なもので、組織再編を伴う。新任マネジャーが1回目の施策後から温めてきたアイデアをいよいよ実行に移す。だが、改革はこれで終わりではない。2回目の施策の結果を評価し、やり残した計画を完了させた後、3回目の施策が実行される。それはオペレーションの改善、市場や技術、その他分野における新しいビジネスチャンスの発見に関するものである。

 ポイントは、全ての施策をあらかじめプランニングするのではなく、1つ施策を打っては様子を伺い、また1つ施策を打っては様子を伺うという姿勢にある。成功するマネジャーは考えてから走るのではなく、走りながら考えているのだ。


 多少失敗があっても、走りながら考えた方が結局は早く着く

 こうした行動パターンは、新任マネジャー特有のものだと言われるかもしれない。つまり、新任マネジャーは着任した組織の状況があまりよく解っていないため、施策の試行錯誤を繰り返しながら情報を収集し、周囲の人間とのリレーションを築いていかなければならない。一方で、上司や部下からは何かしらの成果を早期に出すことを期待されているため、クイックウィン的な施策を早い段階で実行に移そうとする。だから、新任マネジャーは一時的だが集中的な改革を何度も実行するのではないか?と考える方もいらっしゃるだろう。

 だが、既存のマネジャーでも複雑な事業環境や組織の状態をすべて把握することは難しいし、周りから成果が求められる立場には変わりはない。だから、新任と既存のマネジャーを分けて考える必要性は個人的にはないと思う。改革は最初にリッチなプランを立てて一発成功を狙うのではなく、走りながらその時々の状況に応じていくつかの施策を実行する方が成功の確率が高まるのだ。

 先行きが不透明な状況だと、リスクを回避するために可能な限りの情報を収集し、可能な限りの検討を行った上で改革を実行したいという心理が働きやすい。これで大丈夫だと思えるレベルまで徹底的に考え抜いて、ようやく動き出そうとする。しかし、事前に入手できる情報量なんて所詮限られているし、本当に重要なことは行動して初めて解ることが多いものだ。もちろん、検討が不十分なために失敗することもある。だが、その失敗も次の成功のための重要な糧であり、ノウハウであり、資産となる。デスクに向かってプランニングしているだけでは改革は始まらない。改革は現場でしか起きないのだ。

(※)ジョン・J・ガバロ「新任マネジャーの成功条件と失敗要因」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2009年2月号)

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